桜を見た日に

みひろ・りうさんによりますお題もの書き2005年04月テーマ企画「開花」参加作品です。

桜を見た日に


二人で桜を見に行った。
「今年は寒い日が多かったから開花が遅れてるらしい」
「ふーん…。でももう四月の上旬だから咲いてるでしょ?」
「まあ、テレビのニュースでも見ごろって言ってたから大丈夫だと思うけど」
「行けば判るよ。咲いてなくたって別にいいし」
「それじゃ花見にならないだろ」
「だって、二人だけ出かけるのって久しぶりだもの。だから…」
そう言って彼女は、笑ってオレを見た。

桜は満開だった。
「きれいだねー」
「そうだな。ちゃんと咲いてて何だかホッとしたよ」
「どうして?」
「ほら、折角いっしょに行ける日に咲いてなかったら、何だか裏切ったような気がして」
「そんなことないよ。さっきも言ったじゃない。私は咲いてなくても別にいいって」
「まあ、そうかもしれないけど…」
「ふーん。こら、なんかやましい事でも隠しているんじゃないの?」
「な、何言い出すんだ…うわあ!?」
「ふふ、ほら、白状するのだぁ」
「こら、後ろから首締めるなっ! く、くる…わかった、話すから放せって」
「じゃあ、ちゃんと話してよ」
「ああ苦しかった。…うん、実は…」
「実は…」
「まだ、ないしょだ」
「えー、ずるい〜。ああ〜逃げるな〜ぁ」
桜の花びらが散るなかで、彼女が後ろから追いかけてくるのが、楽しかった。

突然の土砂降り。
「雲が厚くなって寒くなってきたと思ったら、いきなり降り始めたな」
「びっくりしたよねー」
「雨宿りできるところあって、助かった」
「危うくずぶぬれになるとこだったね」
「春は天気が変わりやすいからなー」
「今日は、これからずっと降ってるのかな…」
「まあ、通り雨だと思うから、たぶん、すぐにやむと思うけど…」
「そうかあ……」
「………………」
「………………」
「仕事なんだけどさ…」
「…うん」
「今度のプロジェクト、任せてもらえそうなんだ」
「すごいよ! よかったじゃない!」
「うん、ただ…現地に飛ばなきゃならないから…」
「……そうなんだ……」
「…それで……」
「うん……」
「…それで…いっしょに…来てくれないか?」
「えっ……ほんと?……うん……うん、いいよ。いっしょに行く」
「ほんとかい?」
「うん」
「…ありがと」
「なんで…なんでお礼なんか言うのよ。それが…当たり前の事じゃない…の」
そう言うと彼女は笑って自分の手を、オレの手の上に合わせた。

日が差してくる。
「だいぶやんできたね」
「もう少しでやむんじゃないか」
「そうだね、でも、少し寒くない?」
「うん、雨で気温下がっちゃったみたいだな。」
「今日はもう帰ろうよ」
「うん、そうだな」
「帰ったらなんかあったかいもの作って上げる」
「それは、ありがたい」
「何がいい?」
「うーんと…インスタントラーメン…じゃダメ?」
「うん、いいよ。腕によりをかけて作るから!」
「インスタントで腕によりを掛けられてもなあ」
「う〜。ひっどーーい」
「まあ、美味いのをひとつ頼むよ」
「うん……もう、ずっといっしょだよ」
つないだ彼女の手の温もりが、とても優しかった。

(了)

お題もの書き2005年04月テーマ企画「開花」



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