「ゴッゴルの伝説」

榎野英彦さんによりますお題もの書き2004年10月特別テーマ企画「ゴッゴル」参加作品です。

「ゴッゴルの伝説」


「こちらが伝説の台座に刺さった剣「ゴッゴル」でございます。嘘だとお考えならば、ご自分のセンスオーラクリスタルででお調べください」
 その行商人の親父はそう言って頭を下げた。
 目の前に置かれた古びた岩で作られた台座に、一本の剣が突きたてられていた。
 剣士は、言われたとおりセンスオーラの魔法が封じ込まれたクリスタルを掲げた。
 クリスタルは青く輝いた。
 今までに見たことの無い強い輝きだった。
 ……伝説の遺失魔法がかけられていることに間違いない。
 剣士の手の中で青い輝きが細かく震えていた。
 これこそが……これこそが、千年近く言い伝えられてきた伝説の剣「ゴッゴル」なのか。
 ついに、ついにこの剣が俺のものになる時が来たのだ!
 俺の名は、この剣と共に伝説となり、さらに千年言い伝えられるのだ!
 剣士は、親父にうなずくと、台座に近づきその剣の柄に手をかけた。

 数日後、遠く離れた街のバザールで、この剣士と行商人の親父が口論していた。
「何が伝説の剣だ! あの剣はとんでもないナマクラだ! 金を返せ!」
 行商人の親父は、やれやれ、といった口調で言った。
「ここまで追いかけてくるとは、執念深い人だ、仕方ない代金はお返しします」
「当然だ! ニセモノ商売しやがって!」
 親父は心外な、という顔をして答えた。
「ニセモノ呼ばわりは心外ですな。あれは本物の伝説の品です、私の先代が死ぬ思いで闇の洞窟から持ち帰った正真正銘の本物です」
「あんなナマクラ剣が本物の伝説の剣のわけが無いだろう!」
「誰が剣の話をしましたか? あの台座に刺さっていた剣は数百年前に抜かれてしまってますよ、私が言っているのは台座の話です。あれは伝説の台座なのです」
「台座だと? 台座などに伝説も何もなかろう?」
 親父はにやっと笑って言った。
「いいえ、我が一族には伝説となっております。どんなナマクラ剣でも、刺しておけば法外な値段をつけても売れるという伝説に……」

お題もの書き2004年10月特別テーマ企画「ゴッゴル」



クリエーターズネットワーク(CRE.NE.JP) / 連絡先:クリエーターズネットワーク管理者:sfこと古谷俊一