終戦〜決着(をい)、そして伝説の彼方へ〜

端島司さんによりますお題もの書き2004年08月テーマ企画「終戦」参加作品です。

終戦〜決着(をい)、そして伝説の彼方へ〜

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


    ズブシュウウウウッ!


 ヤツの……魔王の絶叫とともに、手元に確かな手応えが伝わってくる。
 間違いなく、ヤツの心臓を、今度こそ正確に貫いたんだ。


    ぶしゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜


「ぐ……あ、力がっ、瘴気が抜けていくっ!? 離せ! 離せええええっ!」

 心臓を貫いた白き聖剣に、魔王は真紅の髪を絡め、引き抜こうとする。
 しかし精霊神の加護を受けた剣は、魔の力になどびくともしない。

「……もう、終わりにしよう、魔王。お前が奪ってきた多くの命の報い、お前
が踏みにじってきた沢山の人達の無念、それによって、お前は倒れるんだ」

 僕は、柄をしっかりと握り締め、ヤツにさらに刃を深くつきたてる。
 ヤツは……魔王は、俺の目をみつめて、瞳を哀しげにゆらめかせた。

「どうして……? 言ったじゃない、護って、くれるって……私と、ずっと一
緒にいてくれるって……なのに、どうして……?」

 魔王は、いや、彼女は、復讐に堕ちる前とかわらない、困ったときの哀しい
表情で、俺をその涙に濡れる目でみつめた。

「……ごめん……姉さん。僕は、もう、一緒にいけない……人間を、憎むこと
は、できない」

 知ってしまったから。
 人の温もりを、弱さを、そして強さを。
 だから、僕はもう、姉さんのように、復讐だけを糧にして生きることは、出
来ない。


              カッ!


 聖剣の刃が白い輝きを放ち、魔王の褐色の身体を清らかな閃光で包み込む。

「あ……ああああああっ!? やめて、やめてえええええええっ!」

「姉さん……いや魔王! 僕は、勇者としてお前を倒す、そう決めたんだ!」

 僕は魔を払う光をさらに強め、僕自身をも飲み込ませた。

「でも……一人では逝かせない。もう、寂しい思いなんかさせないよ……」

 そして、最後に……「姉さん」に、微笑みかける。そう、これが最後なんだ
から。
 だから……

「………ぁ……」

 だから、今は……自分の気持ちに、正直になってもいいよね?


       シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 爆発する光の奔流に、この僕の魔族の闇の身体を捧げながら……。
 顔をぐしゃぐしゃにして、僕の胸に身を預ける姉さんを、しっかりと抱きし
めた。
















 闇の勇者と呼ばれる、魔族の少年の伝説は、ここで終幕とされている。

 この聖魔大戦を終わらせた英雄の存在は、人と魔族の垣根を一時期とはいえ
繋げ、両種族の架け橋となった。

 傷ついた大地に、再び希望の目が芽吹いたのだ。



 ……しかし、後世の歴史家はこう綴っている……


 終戦の後、各地の人々は、白い剣を持つ褐色の魔族の少年の姿を見たと噂し
たという。

 彼の傍らには、燃えるような紅い髪をした、穏やかな魔女が常にあったと……





				  〜終〜

お題もの書き2004年08月テーマ企画「終戦」



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