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Date: Fri, 16 Mar 2007 03:07:39 +0900
From: 藤花 <toukaen@khaki.plala.or.jp>
Subject: [monokaki-ml 00085] 『幼馴染みがおかゆを作りにやってきた』
To: monokaki-ml@cre.ne.jp
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『幼馴染みがおかゆを作りにやってきた』
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 玄関のチャイムが鳴った。
 明け方に総合感冒薬と頭痛薬を標準量の2倍キめ、ようやく眠れる程度に鈍
った頭が、チャイムに応えるように再びうなりをあげ始める。
「だ……」
 誰だよ、というのも面倒くさかった。セールスマンだか宅配便だか知らない
が、今日は勘弁してくれ。
「おーいヒロー、生きてるー? 死ぬ前に貸した金返してよねー」
 非人道的なセリフを吐きながら小柄な娘がずかずかと入ってきた。
「なんだよ美夏、いきなり勝手に入ってくんなよ」
「メールしたし。ていうかあんた鍵くらい閉めな? 比婆の山奥と違うんじゃ
けえ」
 そう言って枕元に落ちていた濡れタオルを拾い、俺のおでこに乗せる。しゃ
がんだときに、短いデニムの奥が見えそうになり、あわてて目をそらした。そ
れを追いかけるかのように、ふわりと紙が顔に覆いかぶさる。
「わぷっ」
「それ。今日の地方財政論のレジュメね」
 指差しながら、彼女はキッチンに向かった。
「おお。ありがたや孫策殿」
「そういうオタクっぽい言動やめてよね。ウザいから」
「がーん。お、まさかお粥作ってくれるの? ……か、金なら無いぞ」
「死ねばいいのに。おばさんに頼まれただけじゃが」
「薄々は、気づいていた」
「ていうか、風邪くらいで実家に電話すんなよばーか。あんたんちのおばさん
とウチのオカンと直通じゃけえ、すぐに『美夏ちゃんちょっと見てきてあげて』
って話になるが」
 土鍋を火にかけながらチャーシューと春菊を刻んでいた美夏が振り返る。病
で動けない時に、包丁を持って憤激した人物が近くにいるという状況は、なに
やら本能的恐怖をもよおすということがわかった。
「いや聞いてくださいよ橘高さん。風邪薬って結構するじゃないですか。そん
で実家から送ってもらおうかなと思っただけで。まさかこんなご迷惑をおかけ
するはめになろうとは」
「別に迷惑ってわけじゃ」
「マジごめん。迷惑だから一々伝えるなって言っときます」
「それはそれでウチが迷惑そうにしてたってことがバレバレじゃが!」
「どうしろって言うんだ……」
 理不尽。理不尽大王である。クラスでは愛想よくできるのに、ちょっと油断
するとこれだ。
「薬くらい友達にもらえばええが」
「どいつもこいつも持ってそうにねえんだよなぁ」
「看病に来てくれる彼女もおらんし、寂しい人生じゃなー」
 そう言いながら美夏は、ポニーテールを軽やかに揺らして振り返り、お粥を
運んできた。
「うるせーよ。うわ、めっちゃ笑顔じゃし。人の不幸を笑うような人間にはな
りたくないのぅ」
「今つまづくと土鍋がヒロの方に飛んでいきそう」
「ボクタチ友達だよね」
「友達でいるのも飽きた」

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