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Date: Thu, 15 Mar 2007 19:04:57 +0900
From: 藤花 <toukaen@khaki.plala.or.jp>
Subject: [monokaki-ml 00084] 『ねこ耳メイドがおかゆを作りにやってきた』
To: monokaki-ml@cre.ne.jp
Message-Id: <45F91A49.6080706@khaki.plala.or.jp>
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『ねこ耳メイドがおかゆを作りにやってきた』
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 玄関のチャイムが鳴った。
 明け方に総合感冒薬と頭痛薬を標準量の2倍キめ、ようやく眠れる程度に鈍
った頭が、チャイムに応えるように再びうなりをあげ始める。
「だ……」
 誰だよ、というのも面倒くさかった。セールスマンだか宅配便だか知らない
が、今日は勘弁してくれ。
 無視してもう一度眠りなおそうとする俺を糾弾するかのように、連続してチ
ャイムが鳴り響いた。その度に頭蓋は共鳴し、視界が赤くゆがむ。
「殺す」
 吐き気をこらえながら憤然とスチールドアをあけるとそこには。
 メイド服を着た女性が立っていた。
「お加減はいかがですか、ご主人様」
 ふりふりのスカートは、ミニだった。
「お粥をつくろうと思って材料を買ってきました」
 そう言ってスーパーの袋を両手で掲げると、袋から飛び出た長ネギが揺れた。
「キッチンをお借りしますね」
 にっこりと微笑んで小首をかしげた。おかっぱ頭の上にあるねこ耳が揺れた。
 なにもかも完璧だった。
 俺が黙って部屋に上げたのは、頭痛薬に含まれた優しさが効いていたからだ
ということにしておいて欲しい。
「ちょ、ちょっと」
「ほらほら横になって」
 そう言って彼女は俺をベッドに押しやり、土鍋を火にかけた。俺はあまりの
出来事に呆然となり、壁に寄りかかって彼女の後姿をぼんやりとながめている。
やがて小さな土鍋が湯気を上げ始めると、彼女は溶いた卵をさっとまわしいれ、
大きなミトンで鍋を運んできた。
「さ、あーんなさいませ」
 ひとさじ掬ってふーふーし、レンゲを差し出すねこ耳メイド。
 俺の中で、なにかが、切れた。
「うわぁぁあああ」
「……」
「ごめん、ごめんよオカン……ちゃんと授業に出るから許して……」
 土鍋を前に、俺はメイド姿の母に土下座した。
「わかればええねん。あんたが間違って実家に届けさせた通販の漫画、米と一
緒に玄関口に置いてあるさかいな」
「うっうっ……」
 都会の予備校に通うからと一人暮らしをさせてもらったにも関わらず、さっ
ぱり授業に出なかったツケは、あまりにも大きかった。

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