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Date: 14 Mar 2007 22:25:32 +0900
From: hisapon_mk2@mail.goo.ne.jp
Subject: [monokaki-ml 00081] お題「寝込んでいるところに彼女がおかゆを作りに」:『俺と委員長』
To: monokaki-ml@cre.ne.jp
Message-Id: <20070314132532.14617.qmail@mail.goo.ne.jp>
X-Mail-Count: 00081

『俺と委員長』
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 遠くで、玄関のチャイムが鳴っている。

 目の前がぼーっとする。
 半分眠ってるんだか起きてるんだかわかんなねえ程にぼんやりとした曖昧な
意識、顔が火照って額ににじんだ汗が気持ちわりい、ちょっと首を動かそうと
するだけで頭の奥がズキズキと割れるように痛い。
「あー」
 もう起き上がるのも億劫で、掛け布団をずり上げて顔半分埋もれるように潜
り込む。
 しばらく時間を置いて、また響く甲高いチャイムの音。
「うぜえ……」
 ってか、こっちはそれどころじゃねぇっつうの。頭は割れそうにいてぇわ、
全身寒気はするわ、熱で意識は朦朧としてるわ、体の節々痛くて動けねえわで。
マジ勘弁してくれよ。
 響くチャイムの音、三度目。
 甲高い音が熱に浮かされた頭に刺さるように響く。
「あーはいはい」
 割れるように痛む額を押さえて、やっとこ重い体を起き上がらせてベッドか
ら抜け出す。汗で湿ったパジャマが肌に張り付いて、冷えた空気に触れたせい
か背筋を這い上がるような悪寒が気持ち悪い。
「っせーな、わかったっつの」
 脱ぎ捨てたままのフリースを拾い上げてパジャマの上に羽織り、スリッパを
引っ掛けて冷たい廊下を歩く。

 俺、高校一年。何の因果か一人暮らし。
 ぶっちゃけると両親は仕事の都合で長期出張中、高校入学したてだった俺は
ついていけないと一人残って新学期早々一人暮らし。気楽といえば気楽かもし
れないが、こんな時はちょっと辛い。
 鳴り響くチャイム。
「はいはい、今開けますっての」
 こんな時になんだってんだよ、ったく。これが新聞の勧誘だったりしたらた
だじゃおかねえぞ。

 ドアを開けた先、見慣れた顔が飛び込んできた。
「山口くん、具合はどう?」
「え……?」
 目の前に立っていたのは、小柄な体に紺のケープ尽きコートを着込み、かっ
ちり編んだ二つお下げのクラスメイト。
「い、委員長?」
「こんばんは」
 ぺこん、と。丁寧に頭を下げて俺の顔を見上げる。
「なん、で、委員長が」
 その呼び名の通り、高校入学してから俺らのクラスの委員長を務め、何かと
個性の強いうちのクラスをまとめている、この小さな体からは想像もつかない
ほどタフで気の強い、まさに委員長の鑑という奴。
「……風邪、ひいたって先生から聞いたから」
「あ、うん。いや、すぐ、治すから……明日には、なんとか」
 なんか心なしか背筋が伸びる。
「いいよ、ちゃんと無理せず体休めないと」
「はい……」
 なんか思わず背筋が伸びる。いわゆるアレだ、鬼軍曹を前にした一平卒みた
いな奴。
「これ、英語と化学のノート、それとプリント」
 どこかちょっと機械っぽい口調とてきぱきと無駄のない動きで手提げ袋を差
し出す。
「あ、はい。助かります……」
 さっきまでの頭痛やら寒気やらを一瞬忘れて受け取る。

「……山口くん」
「は、はい?」
 反射的に背筋を伸ばすと、委員長がどこか睨むようにこちらを見上げてる。
「その……ご飯は食べたの?」
「え?」
 一瞬何を言われるのかと身構えて、続けて出てきた言葉にこけそうになった。
「あ、いや、腹は減ったんだけど……ちょっと億劫で」
 きっと委員長の眉が上がるのをみて、そのまま尻すぼみになる。
「あの」
「山口くん」
「はひっ」
「風邪をひいたときはちゃんと食べて薬を飲んで体を休めないと駄目でしょう、
ただの風邪だからって甘く見て放っておくといつまでも治らないわよ?」
「は、はい……すいません」
 一分の好きもない委員長の正論に思わずたじたじとなる。
「……山口くん」
「は、はい」
 じろりと眉間を寄せたまま委員長が口を開く。
「私、お邪魔してもいいかな?」
「へ?」
「おかゆとか、作ろうかって」
「は?」
 なんで委員長が、俺に?
「ほら、その、ちゃんとご飯食べて薬を飲んで体を休めないと風邪がいつまで
も治らないでしょう? このまま休んだままだと何より勉強に差し支えるし、
授業に遅れて内申にも響くでしょう? それに山口くんは図書委員の仕事だっ
てあるんだから」
 そこまで息継ぎもなく一気にまくし立てると、小さく俯いて口をつぐんだ。
「……だから、どうかな、って」
 もごもごと、さっきの勢いと打って変わってぼそぼそと小声になる。
「え、と」
 なんか言わないといけない気がする。
 というか、その。
 委員長、なんか変じゃねえか?
「駄目かな」
「あ、その、いや、助かるよ」
「本当?」
 ばっと顔を上げて。
「じゃあ、これ、レシピ印刷してきたんだけど、梅粥でいいかな? 玉子粥の
ほうがいい? 生姜湯とかも作れるけど……生姜嫌い?」
「いや、好きだけど……」
「じゃあ、作るね。えっと、お邪魔します!」

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