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Date: 8 Apr 2006 21:42:55 +0900
From: hisapon_mk2@mail.goo.ne.jp
Subject: [monokaki-ml 00068] お題の「遅刻寸前の少女が交差点で衝突した男子に一目惚れ」
To: monokaki-ml@cre.ne.jp
Message-Id: <20060408124255.44716.qmail@mail.goo.ne.jp>
X-Mail-Count: 00068

 久志です。
お題の「遅刻寸前の少女が交差点で衝突した男子に一目惚れ」を書いて見た。

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一目惚れ習作
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 長年の習慣というものは恐ろしいもので。
 十六年という自分の経験上、どれだけ頑張ろうと心に決めても反省してもど
うにもならないことがひとつだけある。

 枕元でけたたましく鳴り響く目覚まし時計。
「あさみちゃん、朝よ」
 五分おきに響いて来る甲高いママの声。
 赤いランプを光らせながら自己主張する携帯電話のアラーム音。
 わかっちゃいるけど起きられない。

「あさみちゃん、遅刻するわよ!」
 人って、懲りない生き物だよねえとこんな時にもしみじみ思う。
 どれだけ前の日早く寝て朝に備えても、いくつ目覚まし時計をセットしよう
とも、ママの甲高い声がキンキン耳に響いていても、たとえ半分目が覚めてい
ようとも、遅刻寸前のお布団に入っていられる限界ギリギリまで私の体は起動
してくれないのだ。

「あさみちゃん!起きなさい!ママもう知りませんよ!」
 わかってます、わかってますよう。
 布団の中にもぐりこんだまま、足を縮めて力を込める。
「せいっ」
 気合を込めて掛け布団をけっぱって勢いつけて跳ね起きる。ええい、もう遅
刻ギリギリ秒単位の世界だ。やったろうじゃん、西崎あさみ選手スタート。
 ピンク地に白のわにさん柄パジャマを恥じらいの欠片もなくぱっぱっぱと脱
ぎ捨てて、枕元のブラを装着、靴下を履いてブラウス羽織ってボタンを留めて、
この間五秒。ヨセアゲするとこないのが早さの秘訣か、嬉しくないけど。
 ハンガーにかけたブレザーの上着の片袖通して、スカートのホック止めて、
肩掛け鞄をひったくってばたばたと廊下を走る。ここまで一分もかかってない、
素晴らしい! そして忘れちゃいけない最後の仕上げ、洗面所に駆け込んでば
しゃりと顔を洗って頬を両手でぱちんと叩く、そのまま濡れた手でちょちょい
のちょいと髪を手櫛で梳いてハイ完成、真っ直ぐストレートの醍醐味ですな。
爆発クセっ毛のママだとこうはいきません、パパの直毛遺伝子に大感謝。
 鞄をタスキ掛けにスカーフのリボンを結びながらダイニングキッチンに足を
踏み入れるとママが三白眼で睨んでる。
「あさみちゃん、もう、どうして毎日――」
「ママおはよっ、じゃっいってきまーす」
 一応片手を挙げて挨拶しつつ、食卓のお皿にのったトーストを一枚拝借して
返事も聞かずに玄関へ直行。
 ―――いつもいつもギリギリまで起きないの?それになんです、いい年の女
の子がドタバタとはしたないったらないわ、ママ悲しいわよ――と脳内で台詞
を補完しながら。おでこに手を当ててお悩みポーズをとるとこまで鮮明に想像
できすよ、ごめんママ、がさつっ子で。
 とん、と、スニーカーのつま先をついて。
 さあ西崎選手家を後に歩道にでました。この調子だとベストタイム更新か?

 トーストの角をくわえたまま、勢い良く地面を蹴って。
 風を切って、走る。
 朝のほんのり肌寒い空気が頬をひやりと撫でて。
 降りぬく腕と、ひたすら前へ前へと進める足と。なあんか今日はイイ感じ、
これなら楽勝ペースかも?
 歩道をひた走ってもうすぐ交差点。ここを乗り切ればもうこっちのもんだ。
間に合いそうだし、トースト食べちゃおかな。
 なんて、一瞬余計な事を考えたせいで。
「え?」
 交差点の角、目の前に突然現れた人影。
「あ……」
 気づいた時には、もう遅い。
 すぐ目の前、小柄な体に黒いガクラン姿、黒目がちの大きな瞳がまるく見開
かれていた映像だけが、印象に残って。

 火花が散る。
 ぐるりと回る青い空、ぴかぴか眩しいのは朝の日差し、目の前で狐色のトー
ストがくるりと宙を舞って。一瞬遅れてお尻にどすんと衝撃が伝わる。
「あいた……った」
 尻餅ついた腰をさすりながらゆっくり体を起こす。大波乱、西崎選手まさか
の転倒? なんてふざけてる場合じゃない。
「ごめんなさい、大丈夫?」
「……いたた」
 ガクラン姿の男の子、うちのガッコと違うなあうちブレザーだし。少し小柄
で細いから中学生なのかも、ともあれこっちの前方不注意スピード違反の一方
的な過失事故、こりゃ一発免停裁判所送りだ、そも免許ないけど。
「君、大丈夫?」
 ぺちゃんと尻餅状態の男の子に手を出して。
「あ、すみません」
 ようやく顔をあげてお互いはたと、目があう。

 なんていうのかな、時間が止まったってこういう感覚。
 こちらを見上げた姿勢、ぱっちりした大きな瞳は吸いこまれそうに深くて、
奇麗で、長い睫毛がちょっぴり影を落としてて。少し色の淡い髪が日に透けて
ほんのり栗色の輪を作って、柔らかそうな白い肌にほんのり頬が桜色。野暮っ
たいガクランよりもフリルのワンピースを着てるほうが絶対似合いそうな。
 ぶっちゃけ、めちゃくちゃ美人さんだった。
「すみません、ぼんやり歩いてて」
「あ、ううん、こちらこそごめんね。前見ないで突っ走ってたせいで」
 うわあ、小さく会釈する姿もにっこり笑う仕草も本当に可憐。ガクラン姿と
のアンバランスさがおかしいというか、絶対噛みあってない。って、こんだけ
の美人さんってうちの学校女子でもまずいないぞ。こんな奇麗な子に怪我でも
させたら一大事だ。
「あの、怪我とかしてない?」
「いいえ、僕は大丈夫です。あなたも怪我はないですか?」
 小さく首を傾げて微笑む顔がまた、なんというかすごく可愛い。
 どうしよう、なんだか顔が熱くなってきた。

 でも、ちょっと待て。
 というか、このドキドキの仕方ってどうよ?レズっ気あるのか、わたし!?

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以上。
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