タイトル：自業自得な時間
４年目を迎える大学生活も終盤にさしかかっていた。俺の就職は無事決まり、単位
の心配もない。
俺は引退したはずの文芸部に、また毎日顔を出すようになっていた。
文芸部と言っても、、みんながみんな小説を書く訳じゃない。雑談専門の奴もいれ
ば、ＴＲＰＧで遊ぶだけの奴もいる。
俺？俺は今までも小説を書いてきたし、これから先も書き続けようとは思ってる。プ
ロになれたらいいなと言うあこがれがあるのは事実だが、俺は卒業したら普通に就職
すると決めた。
気の合う仲間達とバカ話をしながら、気が向いた時に文章を書く。そんな生活が気に
入ってたし、その仲間達も普通に就職する。俺は必死になってもなれるかなれないか
分からないプロを目指すより、仲間達と普通に遊ぶ方を選んだのだ。
俺は今日もまた、部室で雑談に興じていた。同期の連中はまだ、なんだかんだで忙
しいのだろうか顔を見ないが、やっぱり大学生活のほとんど全てを過ごしてきた場所
というのは実に居心地が良い。顔馴染みのある後輩達は何人もいる。そんな部室の
中、俺は後輩達の前で先輩風を吹かせながら言っていた。
「お前らなあ、どうやったら面白いモノが書けるかなんて考えるな。自分が面白いと
思うモノはこれなんだというのをぶつけるんだよ。何？どうせ書くなら周りにも面白
いと言ってもらいたい？そりゃ俺だってそうさ。だからと言って、自分が面白くない
モノを書いて迎合する気なんて全く無い。俺はいつでも、自分が面白いと思ってるこ
とを書いるし、いつでも出せるぞ。」
……なんて演説した結果、俺は卒業記念に一冊、個人誌を出すと後輩達に約束してし
まった。
もちろん、勝算が全くなかった訳じゃない。
就職活動や卒業論文で忙しかった時期にため込んだ、書いてみたいアイデアはいくつ
もあったのだ。
だからいつでも書ける──脳天気にそう構えて、手を付けずに遊んでいたのが間違い
だった。
ボロアパートの一室、つまり俺の部屋の机には白い原稿用紙が山のように積んであ
る。締め切りは来月１日。そして今日は今月最後の日──いや、もう日が変わってし
まったな。つまり今日が締めきりだ。この状況で白い原稿が積んであるって事の意味
ぐらい分かるだろう。つまり、まだ書いてないと言うことだ。そして、こんな状況
だって言うのに俺の頭はまったく働いてくれない。
（こりゃだめだ……）
そう思って、気分転換にTVゲームをはじめた。気が付いた時には、１時間だけのつも
りがもう３時間も経っていた。
「うおっ、やべっ」
我に返った俺は、独り言を言ってゲームを終了させた。
あわてて思考を今書こうとしている小説の方に切り替えてみたものの、俺の頭に浮
かんでくるのは、今書こうとしてる小説には使えないようなものばかり。
「あーっ、できねーっ」
白紙の原稿を前に一人叫んでみはみたものの、そうしていても仕方が無い。
もし今俺の手の届く所にタイムマシンがあったら、過去の自分を殴りに行ってい
る……いや、殴る権利が今の俺にはあるはずだ。
何考えてるんだか。自業自得って奴だろうが、これは──いかん、だいぶ煮詰まって
るな。
何か使えそうな事が浮かんでこないか、部屋の中を見渡してみた俺は、何気なく目に
ついた紙の文面を見てみた。
「ん？印刷所の契約書か──何？原稿の入稿が遅れた場合だって？」
そんな文字が俺の視界に飛び込んできた。
俺は契約書をまじまじと見た。今月４日までだったら、割増料金１０％を支払えば約
束した日に本が出せると言うことがわかった。
（１０％と言うことは……）
俺は頭の中で、今の自分の財布の中身と次の仕送りまでに必要な生活費の算段をつけ
てみた。
計算完了
ちょっと……いや、大分苦しいかもしれんが、何とかならないことはない。
よし、過ぎたことは忘れよう。
世間様がなんと言おうと、今月はまだあと３日残っている、たった今俺の中ではそう
決まった。
俺は契約書を片づけると、風呂にでも入ってからゆっくり寝る事にした。
ああ？ただの現実逃避じゃないかって？
ほっといてくれ。締め切りが過ぎて煮詰まってる人間に対して、そのあたりは配慮す
るもんだぜ。
え〜、HPに掲載したのと同内容の物です。HPが外部からのリンクを受け付けないと言
うことが判明したので、こっちで再掲載させて貰います(^^；
外部リンク不可はＣＧＩだけだと思ってたんだが……
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