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Date: Wed, 19 Jul 2000 17:50:57 +0900
From: "Take-chan" <takeco@mb.neweb.ne.jp>
Subject: [bun 00454] 「拝み屋さん・4」
To: <bun@cre.ne.jp>
Message-Id: <007701bff166$6ebb7380$3f5fe6d2@computer>
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 民子はビックリした。そんなことは夫以外の人が知るはずもないこと。
誰にも言ったことのない秘密だったのだ。驚き過ぎて急に息苦しく
なってしまった。家庭でしばしば起こる激しい夫婦喧嘩は、
妻の劣等感を夫が思いきり刺激することによって引き起こされるのだ。
痩せ型で頭が良くてしっかり稼いでくる夫。
太っていてバカで家事が嫌いでねっ転がっているのが一番好きな妻。
民子はそんな図式を頭に描き、密かにふてくされて
開き直り、半ばすてばちになっていたのだ。

「結婚式をしなかったのも、夫の友人に紹介してくれないのも、
親戚にすら正式に紹介されないのも、みんなみんな私が
『紹介するに値しない妻だから』に違いない」

 民子はずっとそのように思いはすにかまえていた。
だがそのことを知っているのは、民子の劣等感と悲しみに
直接触れたことのある夫だけのはずだったのに。
民子は胸を押さえながら、もぞもぞと居住まいを正した。
冷たい汗が背中をつるーりと滑り落ちてゆく。
 拝み屋さんはなおも続けてこう言った。

「今は旦那さんが我慢しています。でももう少しすると、今度は
あなたが我慢する番です。あなたがこの先ずっと我慢できれば、
二人の仲は一生円満でしょう」
「………」

 夫を口汚くののしり、夫にうるさくまとわり付き、愛の忠誠を強くせがむ。
「夫に認めて欲しい・愛して欲しい」という心の飢え(かつえ)から
来ているんだろうなあ、と民子にはわかっていた。
これから我慢するとはこの飢えのことなのかしらん。
 疑問に思いながらも、民子は拝み屋さんに聞く事が出来ない。
口の中で舌があごにくっついてしまって動かないのだ。
 民子の肩が小刻みに震え出した。

・・・・・・続く・・・・・・(次がラストです)


    

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