くだんの拝み屋さんはどこにでも居る普通の主婦だった。
スーパーでポリ袋を余分にふんだくるタイプのようにも見えた。
「アラ、なんか近所のアラカワさんみたい。あの人ったらゴミ分別に命かけてるのよ
ね、私よりずっとババアのくせに。拝み屋さんもアラカワさんみたいに
バイタリティあるのかしらん…」
心の中で民子は呟いた。思わず笑いたくなるのを必死でこらえると、拝み屋さんが
民子をじろりと見て、相談の手順を説明し始めた。
民子は言われた手順に従って、自分の病歴と家族構成、在住する市、
夫と自分の生年月日を伝えた。さあ、それから「拝み」が始まった。
前評判通り、見えない誰かと何か深刻な話をしているようだ。
「ブツブツブツブツ……えいっ!えいっ!」
空気を手刀で何回も力いっぱい切り裂くと、拝み屋さんは民子に話しかけてきた。
「今日は何をお聞きになりたいのでしょうか」
「私、自分の病気が再発するかどうか知りたいんです。
だって子供の結婚式には出たいけど、もしでられないなら覚悟しなきゃあ」
「再発…それはね、言えません。それを言ってもあなたにとって
苦しみの解決にはなりません。ひとはみな悩みながら生きるんです。
がんばって、としか言えませんね」
「そうですか…。じゃあ、私たち夫婦はこの先ずっと幸せに暮らせますか?」
「う〜〜〜〜〜ん。ブツブツ…」
またもや見えない誰かとの会話が始まった。何やら念仏のようなものまで唱え始
め、最後には再び手刀で目の前を斜めに切り裂き出した。
「えいっ、えいっ、ええ〜〜〜いっ」
一通りの儀式が済むと、拝み屋さんは肩で息をしながら民子をまっすぐに見た。
「あなたはいま、釣り合わない結婚にとても苦しんでいますね」
・・・・・・続く・・・・・・
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(bun ML)
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