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Date: Tue, 18 Jul 2000 21:03:16 +0900
From: "Take-chan" <takeco@mb.neweb.ne.jp>
Subject: [bun 00452] 「拝み屋さん。2」
To: <bun@cre.ne.jp>
Message-Id: <000901bff0b0$518452c0$cd5fe6d2@computer>
X-Mail-Count: 00452

 拝み屋さんは立派な瓦屋根の家に住んでいた。ガラリと引き戸を開けながら、民子
はご免くださいと声をかけた。亀のように首だけをにゅっと入れて様子を探ったの
だ。
普通の家とは全然様子が違う。民子の家の五倍以上も広いたたきに、ズラリと靴が並
ん
でいた。玄関の上がりかまちには一冊のノートが置いてある。玄関脇には女性がい
て、ノートに名前を書くようにと民子に話しかけてきた。民子がノートを見ると、そ
こに
は何百人もの相談者の名前と住所が書いてあった。民子はますますびっくりした。

「今日だけでも三十人はいるわね。評判通りなのかしら。こりゃずいぶん遠くから来
ている人もいるわ」

 顔を上げると玄関の端から廊下にかけて、ずらりと椅子が並んでいるのが見える。
訪問者はみなそこにちんまりと腰掛け、祈るように両手を合わせ、指だけをもじもじ
動かしじっと自分の番を待っているのだ。名前を記入した後、民子は一番端の椅子に
お尻を落とした。

「どすん」
「ぎし…」

 椅子が大きな音を立て、周りの人がじろりと見る。民子はひたすら身を固くして、
気配を消すことに専念した。こめかみをたらりと汗が落ちる。
 そうやって何時間待った事だろう。名前を呼ばれてハッと我に返ったところからす
ると、、民子は居眠りをしていたようだ。ヨダレが落ちかけた口の周りをハンカチで
拭いながら、民子は部屋へと足を運んだ。入った右側に拝み屋さんのデスクがあり、
次の間にはかなり大きな祭壇があった。タップリの榊を両脇に置いて、真中には丸い
鏡が鎮座している。昔歴史の教科書で見た銅鏡のようなものだった。

「こちらへどうぞ」

 拝み屋さんが声で民子を椅子へといざなった。企業の社長さんが好んで使いそうな
オーク材のどっしりしたデスクの向こうから、拝み屋さんがニッコリと微笑んで掌で
目の前の椅子を指し示している。民子はおずおずと椅子に腰掛け、上目遣いに改めて
拝み屋さんの顔を見た。

・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・




    

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