Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Fri, 18 Feb 2000 04:09:57 +0900 (JST)
From: 青田 ちえみ <old3@yahoo.co.jp>
Subject: [bun 00428] [NOVEL] 雨花(うか) 
To: 文章研鑚 ML <bun@cre.ne.jp>
Message-Id: <20000217190957.21008.rocketmail@localhost.yahoo.co.jp>
X-Mail-Count: 00428

おはようございます。青田ちえみです。
初めて、5Kバイト以下でショートショートが書けました(^o^)
  #早く1Kバイト小説が書けるようになりたい。

この作品、読んで頂けたら幸いです。



「



 田舎の交差点のくせに、ここの信号は赤から青までの間隔が異
常に長い。あくびが三回以上出来るのだ。
 暇つぶしに、僕は「死」について考えてた。
 死んだら天国に行けるのだろうか、それとも地獄だろうか。い
や極楽浄土かもしれない。
 自分でいうのもなんだが、僕は熱心な仏教徒だ。
 だけどキリスト教に憧れもしている。だから、死後の世界に逝
く道程で三途の川を渡るのか、カトリックでいう煉獄(天国と地
獄の間)へ堕ちて魂の浄化を待つのか、興味のあるところだ。
 もしかしたら昔読んだ本に出てきた古代エジプトの死後世界が
本当の場所で、アヌビスとかいう犬の頭をした神様なんかに、天
秤にのった黄金の羽根で魂の重さを量られるのかもしれない。
 そこだったらとても恐い。僕みたいに嘘つきでバカな人間の魂
は、黄金の羽根よりも重たいに決まっているから。
 モノの本によると、天秤が自分の方に傾いたら地獄の番犬に喰
われてしまうらしいのだ。
「死んだら人はそれでおしまい、死後の世界なんてない」
 と、言う人もいるので、もしかしたら輪廻転生も最後の審判も
ないのかもしれない。
 その人はこうも言った。
「それでも、魂は水や空気に溶けて存在し続けるんじゃないか」
 死んだら何もない、その時点で永久におしまいだ、と言われる
よりこの方がなんだかほっとする。
 ふと、視線を道路の対岸に向けると、懐かしい顔に出会った。
 つよしの姉さんだった。四ヶ月前よりも、少し痩せているよう
に見える。それが少しだけ、悲しかった。
 四ケ月前、つよしは死んだ。交通事故だった。
 それは、ある日唐突にやってきた。当時僕は働きながら自動車
学校にも通っていて、遊ぶ暇もない最悪の状態だった。
 その自動車学校は、比較的地元の近くにあったので卒業後、何
週間も会っていなかった友達もたくさん来ていた。
 その中で、塾も同じだった男が僕の顔を見るなりこう言った、
「今日、通夜があるけど、お前どうする」
 あまり自然に話すので、何のことなのかすぐには解らなかった。
 奴はつよしのことをいっているらしかった。
 最初は冗談だと思った。
 急いで他の人にも聞いたが、返ってくる答は同じだった。
 それでも僕は、担がれてるんだと思っていた。通夜の会場で、
打ちひしがれたつよしの姉さんの姿を見るまでは。
 僕はつよしの姉さんに憧れていたので、その姿はかなりショッ
クだった。 献花して一息ついている時、幼なじみの女子たちに
とっ捕まり、詳しい話を聞かされた。
 つよしは、自転車で二人乗りをしていて、横を擦り抜けようと
した車に引っかけられたということだ。自転車に乗っていたもう
一人の方はかすり傷程度で済んだらしい。だが通夜には来ていな
かった。
 彼はつよしが生まれてから初めて持った「友達」だったんだと、
女子は口々に教えてくれた。初めての友達、と驚いて僕は聞き返
した。僕のそうした反応を見て彼女たちは、涙で声も出せなくなっ
たようだった。
 あの明るいつよしに友達が居なかったなんて、信じられなかっ
たし、信じたくなかった。
 四ヶ月経った今も、その思いは変わらない。
 つよしの死は、高校を卒業するまで続いていた、幸福な時代の
終焉を知らせる音となった。それは決して消すことのできない物
として僕の中に残るだろう。
 友達も親戚も、誰一人として欠けることのなかった十八歳まで
の日々は元には戻らない。
 僕の体のどこかで、がらがらと何かが崩れていく音が今も聞こ
える。
 僕は会社を辞め、親元で肩身が狭い思いを強いられている。
 プライドだけは人一倍高く、そのくせ何も出来ない人間だとは
就職するまで気づかなかった。自分は万能だとさえ思っていた。
 秀才だなんだと、学生時代もてはやされて天狗になっていた報
いかもしれないが、ここまで酷い目に遭うほどのことでもないん
じゃなかろうか。
 だけど現実に僕は無職だ。学生だった頃、こんな辱めを自分が
受けるとは想像だにしていなかった。
 僕の黄金時代は終わったんだ。あの幸せな日々を巡る歯車は、
ひとつずつぱらぱらと欠け始めていた。それをはっきり肌で感じ
ている。
 次は一体何が欠けるんだろう。
 もう、僕の大事なものは何も欠けて欲しくなかった。だから僕
は毎日祈るのだ。どうか、あの幸せな時間に戻してください、誰
も死なせないでください。僕の黄金時代を奪わないでください、
と。

 信号が青に変わった。僕も、対岸のつよしの姉さんも、お互い
に向かって歩き出した。しかし、彼女はまだ僕に気づいてはいな
かった。声を掛けようとしたが、大声になってしまう距離なので
ためらった。
 どうしようか迷った末、声を掛けることに決めた。
 瞬間、彼女の悲鳴がそれを遮(さえぎ)った。
 視界いっぱいのトラック。それが僕の最後に見たものだった。


[End]

ここまで読んで下さってありがとうございます!
如何でしたか? 
このアイデア、3年間も温めていましたんで
孵化に失敗しているかも〜、とドキドキしてます。

ではでは〜
-------
青田ちえみ
mailto: old3@yahoo.co.jp
http://nonbiri.room.ne.jp/~nonbiri/onl/

_________________________________________________________
DO YOU YAHOO!?
FREE "@yahoo.co.jp" address --> http://mail.yahoo.co.jp

    

Goto (bun ML) HTML Log homepage