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Date: Thu, 23 Dec 1999 02:26:45 +0900 (JST)
From: Sally Tomato <jk4t-nsd@asahi-net.or.jp>
Subject: [bun 00399] はじめまして
To: bun@cre.ne.jp
Message-Id: <199912221726.CAA06855@goro.asahi-net.or.jp>
X-Mail-Count: 00399


はじめまして。
大阪在住のサリートマトです。
まだまだ若輩者ですが、よろしく。

とりあえず挨拶代わりに何か自作の文章を送ります。
欠点などもしお気づきの点があれば是非ご指摘ください。
厳しい批評を期待しています。
ではまた。


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 太陽が北西に落ちるのを見て、哲生はもう冬だなと改めて思った。ここ二日間雨が続
いたためか、夕焼けに染まる雲を見るのはなんだかずいぶん久しぶりのような気がした
。傾いて赤みを帯びた陽光が迫り来る夜の暗がりとせめぎ会い、空は幻想的な陰影をた
たえている。遠くでは焼き芋を売るトラックが品のないテープを繰り返し再生していた
が、それがどこから聞こえてくるものなのかは哲生には分からなかった。
 哲生は上着のポケットからくしゃくしゃになった煙草の包みを取り出し、そこから一
本を抜き取った。今日ご本目の煙草に火を付けて、紫煙と一緒に大きな溜息をついた。
寒い夜になりそうだ。哲生は両手をこすり会わせ、向かいのベンチに腰を下ろしている
男女を眺めた。学生服を身につけている訳ではなかったが、哲生は何となくその二人を
高校生だと思った。女が男の肩に頭をもたげ、何やらひめやかな微笑を浮かべている。
男は女の肩に腕を回してその声にうっとりとした様子で聞き入っている。
 哲生は時計を見た。もうすぐ五時半になる。洋子が来るまでにはまだあと三十分の余
裕があった。洋子は学生服で来るのだろうかと哲生は考えてみたが、やがて馬鹿らしく
なってやめてしまった。着てくる服装などどうでもいいことなのだ。それより自分は洋
子を見てちゃんとそれが洋子だと認識出来るのかということが不安だった。というのも
、洋子に最後に会った時、彼女はまだ六歳の女の子だったからである。
 哲生は洋子と別れてからの十年を思い、そこで出会い失ったものを思い、その間に受
けたと思われる洋子の痛みを思った。父親のいない十年間というのは、成長期の少女に
とってどのようなものであろうか。それはいくら想像しても理解出来ないことだ。また
自分にはそんなことを考える権利さえないことを哲生は十分に自覚していた。それなの
に今こうしてのこのこと会いに来てしまった自分がとても非道なものに思えてならなか
った。哲生は禿びた煙草を足で踏みつけてそっと顎に手をのせた。今朝、駅前のホテル
でそったはずの髭が微妙に生えて、心地よい肌触りを与える。小さい頃の洋子がよくこ
うして顎に手をあてがって笑っていたことをふいに思い出して、哲生はまた不安になる
のだった。そして、「俺は十年前にあんなことをするべきではなかったのか」と独り言
ちた。

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Sally Tomato
jk4t-nsd@asahi-net.or.jp
                       



    

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