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Date: Tue, 23 Nov 1999 03:55:13 +0900
From: きるしぇ <sakura_o@ma3.justnet.ne.jp>
Subject: [bun 00352] Re: [Novel]  薄光
To: bun@cre.ne.jp
Message-Id: <3839919124E.1876SAKURA_O@ma3.justnet.ne.jp>
In-Reply-To: <3838415F10E.B321A-SHIMO@smtp.sol.dti.ne.jp>
References: <000001bf3428$39419a00$70eaedd2@fortuner> <3838415F10E.B321A-SHIMO@smtp.sol.dti.ne.jp>
X-Mail-Count: 00352

こんにちは


「薄光」読みました。

在原さんとは違うのだけれど、傾向としては在原さんの意見と近い
ものがあるような気がします。

> 普通の、余裕ある生活は当たり前です。リエが稼いできてるんだから。
> 緊迫感など、あるわけありません。ぼくはそういう立場を改善しようとはし
> ていないのだから。「ぼく」は無気力なヒモなんですよ? 二人が精神的に
> 参っているのは、それはまあ当然そうなんでしょうが、

あつしさんの作品で、いつも気になるのが、この点です。
「主人公は無気力な青年」。
「自分からはそれを改善しようとはしない」
(そしてそれでいて破滅的な結果にはならない。誰かが救ってくれ
たり、誰かが変わったことで主人公は破滅せずに済む。非常にごつ
ごうです。)

その、根本がまずいんですよ。

個人的に、こういう性格の人は嫌いで、小説の主人公だろうと実在
の人だろうと、こういうのを見ると、「アウシュビッツのガス室に、
ユダヤ人の代わりに押し込めて高速大量最終処分」を図りたくなる
のです。
だから、好きなタイプではないので、、点数が辛いのかもしれない
のですが、たぶん、「小説の主人公として最も魅力がない」タイプ
だと思います。

あつしさんの作品は、梶井基次郎の作品に似ています。文体なども
似ているところがあります。
でも、梶井基次郎の作品の中の主人公は、確かに自分の中にある
名状しがたいものに悩まされて彷徨してますが、「何かを見つけよ
う」という意志を持っていることは分かります。
あつしさんの作品の中の主人公は、それすらしない。

ただ単に、幼稚でわがままで、「誰かがしてくれる」ばかりです。
家族がないと生きていけない、そして家族が崩壊するとオロオロし、
それをつなぎ止める努力もしないで、家族が元通りになるとまた
安住する。

最初に見た作品も、「先輩が『おごるから』と女を抱かせてくれ」
て、「ピンサロの女の子がイカせてくれて」、主人公はただウダウダ
考えているだけ、という作品でしたよね?

次の作品は、大学に行ったけど途中でさぼってばかりの主人公で、
やることと言えばお寺で昼寝と、友人を騙して金をまきあげること
と酒を飲むことで、母親がボケかけているのに、そういう面倒は一切
姉や父に押し付けて、それで、「家族が崩壊してる崩壊してる」と
いうことばかり悩んで、彼女とケンカしても、主人公が全然何もし
ないのに彼女が勝手にセックスで仲直りしてくれて・・・って作品
でしたよね?

その次の作品は、父親が大病をしたときに、母親が離婚届を出して、
それで家族がぎくしゃくして、主人公はやっぱり、それをどうにか
しようとするより、ただ単に「幼児時代に逃避」するだけで、
母親が離婚を考え直して「家族が元通り」になったらその逃避も
止んだ、というだけの話。

今度の作品は、同棲していたけれど、主人公が会社をクビになり、
彼女のヒモ状態になって、もちろん父親にも迷惑をかけ、それでも
生活を改めようとせず、まあ同棲している彼女の家事くらいは
やってるけど、彼女の精神的な支えにはまったくなってやれず、
ただただ「何かを見失った」みたいな自分のことばかり悩んで、
それでいて彼女から見限られることもなく、なんか「文学らしい
終わり方」でウヤムヤになっている作品、ということですね?

こうして四作品並べると、うんざりしますね。

なんで、あつしさんの作品の主人公は、破滅したり罰されたり、
最低限「恋人を失う」「友達からの信用を失う」ような辛いこと
がないのですか?
もちろん、「優柔不断な主人公」だって悪くありません。
でも、優柔不断な主人公の出てくる作品は、必ず、「主人公が
破滅する」あるいは「主人公がひとつでも大人になる」ことが
書かれなければなりません。

責任を取ったり努力したりすることが全くないのに、誰かから
(金銭的・精神的にも)ナアナアで援助してもらえる主人公は、
はっきり言うとオメデタイ。

読んでいて、非常に「女性や家族があまりにもこの優柔不断な
主人公に都合が良すぎる」のです。主人公のワガママを全部
周囲が飲んでいる。
そうやってスポイルされたあげく、最後にダメになるところま
で書けていればすごいと思うのですが、そうではない。

あつしさんの作品を4つ読みましたけど、「自分で何か意志を持つ」
「なんとか改善しようとする」主人公は一人もいない。
こんな主人公の、どこが良くて女性がつきあってくれるのでしょう?
見た目や才能で、最初は惹きつけられるかもしれませんが、すぐに
愛想をつかすでしょう。
どうして、あつしさんの作品の女性は、恋人である主人公に愛想を
つかさないの? 何もしてあげてないどころか、害を及ぼしている。
この作品でも、彼女は、「何かを失った、何かを失った」と言うで
しょう。
(「僕が職を失ってからこうなった」とか「節約する意志もない」
などと書かれているから、「生活に困っている」ようにわたしも
思いました。というより、生活が安定していたら、こんな破滅的な
生活にはならないんじゃないか、と思います。女の稼ぎだけで、
高い家賃のマンションに入り、しかも夜遊びまでしていたら、たちまち
生活が困窮するでしょう。その点もおかしい。その点、在原さんの
感想と同じものを持ちました。つまり、大失敗のクズ小説、って
ことです。)

わたしなら、こんな男、追い出しますよ。
自分を悪くするだけだもの。
ホームレスになろうと路上で凍死しようとつまらない犯罪を犯して
ムショ入りしようと、この主人公の性格が悪いんだもの、どうして
やりようもない。
こんな男に関わって自分まで落ちるところに落ちたくない。

主人公は、なぜ、自分を反省しないのですか?
「自分が悪いことは分かってるんだ、でもこんなに自分を責めてる
んだから指摘するなー!!」というワガママ幼稚男は、昨今たくさん
います。
はっきり言うと、それにしか見えません。
そういう人間は、たとえば友人を失ったり恋人ができないまたは
できてもすぐ去られる、つまらない犯罪など起こして社会から
ドロップアウトする、などのことがあるはずですが、それがない。

親から金をもらってばかりで、何にも思わないのですか?
「思ってるさ、だから最初苦しんでるんだ」と言うかもしれません。
でも、そこが、
「自分が悪いことは分かってるんだ、でもこんなに自分を責めてる
んだから指摘するなー!!」というワガママ幼稚男
にしか見えないところなんですよ。

言われたらイヤ、でも金は使いたい放題したい、ってそれだけじゃない。
>  ただひたすらに理想を追い求めるぼく
だなんて、カッコイイものなどでは、決してありません。

お互いを補完しているというよりは、主人公が全面的に恋人に寄生して
いる。(主人公の存在が、彼女を悪くしている。そして、それを見て
いても、主人公は自分を変えようとしない。それが彼女を愛している
ということなのか? )

主人公は、ただひたすら、「幼年期は良かった」と言うばかりです。
(この作品と、前作の恐竜の話。)
そりゃー、幼年期はいいでしょう。
働かなくても(親がいれば)食べていけて、働かなくても周囲は白い目
をしないし、ただ自分の楽しいことだけで生きていけるから。それを、
「純粋」だとか「理想」だとかと、作者がカンチガイしてるんじゃないか、
って気がしています。

痴呆になった母の面倒は父と姉に押しつけ。父から金をもらって返した
ことがない。恋人に全然恋人らしいことをしてやらないのに恋人のほう
から和解してセックスしてくれる。金をだまし取った友人は追求してこ
ない。学校にもまともに行かない。同棲している恋人に一方的にぶらさ
がっているだけで恋人が悪い状態になっても自分を変えようとしない。
それで、「理想の追求」も「家族の絆」もあったものではありません。

自分は何もしないで、居心地の良い家族の中でぬくぬくと暮らし、人に
は何もしないけど人からされることは要求し、何もしなくても金が出て
くる? それがなくなったら「何かが崩壊したんだ」とか言う?

どうして、自分でお金を稼いだり、恋人や家族のことを思いやったりする
シーンがひとつもないのですか?
自分勝手で幼稚なのに、どうして罰を受けないのですか?

そういう作品が、人の心を捕らえると思いますか?

次は、もっと「行動する主人公」「何かあったら反省して次に向かう
主人公」「家族や恋人や友達を思いやる主人公」を書いてみてはどう
でしょうか?

「プリズム」にはまだ評価できる点がありましたが、この作品には、
全く評価できる部分は、ありません。
(文章的にも、
>  しかし二時間後、ぼくは再びガガガの音を聞くことになる。
>  いつものことだ。

> 若さ故の勢いで借りたマンションの高額な家賃や、節約という言葉とは無縁
> の生活費、すなわち生まれてこの方貧乏というものを経験したことのない二
> 人の無邪気さ
という描写があって、

> 普通の、余裕ある生活は当たり前です。リエが稼いできてるんだから。

というのは、おかしい。逼迫している描写もあるし、またこういう状況
では確実に逼迫するはずです。
在原さんが悪いのではない。

そして、そういうズレは、テクニック的なものではなく、作者の、あまりに
「作者に類似した男性主人公に都合良すぎる世界」から来るエゴイズムだと、
わたしは思うのです。

以上、感想でした。

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  ∧ ∧  砂倉 櫻
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「小説ほおむぺえじ さくらさくら」
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