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Date: Wed, 16 Jun 1999 11:22:15 +0900
From: "=?ISO-2022-JP?B?GyRCJC0kayQ3JCcbKEIg?=" <sakura_o@ma3.justnet.ne.jp>
Subject: [bun 00306] Re: 「陽炎の日」感想<野崎さんの感想に対して
To: bun@cre.ne.jp
Message-Id: <37670A571E.3941SAKURA_O@ma3.justnet.ne.jp>
In-Reply-To: <002001beb6f4$f040da10$690100c3@pcd0070>
References: <002001beb6f4$f040da10$690100c3@pcd0070>
X-Mail-Count: 00306

またしてもDMになってしまいました。
横山さん、ごめんなさい。MLに流すつもりだったのです。
(そのまま返信したらML宛にならないのですねえ・・・(T_T)

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砂倉 櫻です。


> 「陽炎の日」の感想は私信にてあつしさんには送ってありまして今回は割愛
> させてもらおうかなと思っていますが、今考えてみると、敢えてそれをML
> 上に流し、皆の意見もうかがってみたほうがよかったなと思いなおし、少々
> 後悔しております。

今からでも流しましょうよ(^^)。
横山さんの感想をうかがいたいわ。

ええと、ここからはわたしの感想・・・

あつしさんの作品って、全体的に「ちんまり」している感があります。
「他者とあらそわず、傷つくことがあっても自分の殻に閉じこもるばか
りで、他者を傷つけ返すこともないかわり自分を積極的に擁護すること
もない」
「陽炎の日」も「プリズム」も同じような感じを受けました。

これは、わたし自身の好みなので、聞き流していただいて結構なのです
が、こういうタイプの主人公、あるいはこういうタイプの話というのは、
個人的には全く好みじゃないです。
共感もできないし、おもしろいとも思わない。だから、評価もちょっと
今回は辛いかもしれない。
まだ「プリズム」のほうが、フーゾクを書いていて興味をひかれました。
女性のわたしは、知りようがない(まあ、そこにお勤めすればわかるで
しょうけど(^^;;)世界なので・・・。)

「プリズム」「陽炎の日」双方ともに、セックスシーンで、女性をモノ
のように感じているんじゃないか、って気がしました。
「プリズム」のほうは、「個室マッサージ」の女の子なので、それで良
かったのですが、今回はかりそめにも恋人です。
あるいは、主人公はかなり自分のことしか考えていない、幼い男性なのか
もしれません。(あるいは作者が。)
わたしがこの女の子だったらこういう男性に不安を感じますし、不安感
からこんなふうにセックスするかもしれないけど(つまりつなぎとめる
ために、そのあとで、「わたしとのことを考えてくれてるのか」と無邪
気に聞いたり、裸で、さも爽快そうに「カーテンをあけ」たりしないと
思うんです。

主人公のほうが、「今が楽しければ、という彼女の言動に、なにか居心
地が悪い」というように感じているわけでしょう?
この二人は、うまくいきっこないような気がします。
そういうのは、相手にも伝わってしまうし、そんなんでセックスをする
かなあ、って思うんです女性として。
(主人公は、父親に、「この娘がボクの恋人です」と言えないですよね?
わたしが彼女なら、たとえセックスする気持ちで家におしかけても、主人
公の「あ・・・僕の」ということばで、「この人にはついていけないな」
と判断しますね。
また、遊びで、将来まで考えてなければセックスするかもしれませんが、
そういう関係なら「わたしとの将来を考えているの?」というような問い
はしないでしょうし・・・
不安から、体で恋人をつなぎとめよう、とするのであれば、上に書いたよ
うな満足そう爽快そうな描写はおかしいし・・・
要するに、女性の心理がマズいのです。)

文章が上手であるだけに、主人公(もかなりうすっぺらいけど、まあ若い
男性だからこんなものか)以外のキャラクターのうすっぺらさが非常に目
立ってしまう。
わたしならこういう男性を恋人にしないし、もしまちがってしてしまって
も、1ヶ月連絡がなくて、家にこんな風につめよって、「疲れていた」と
かいうような返事だったら、別れます。
また、ネギシくんともそうです。
わたしがネギシくんだったら、友達やめます。騙されたお金はたいした金
額でないでしょうけれど、どれだけ少額でも、そんなふうにお金に関して
騙す人を信用できません。また、自分が大切にしている価値観(ネギシく
んの場合インテリア)をおちょくられたような気持ちにもなるでしょう。
わたしなら、絶対許しません。特に、後者のほう(自分の大切にしている
ものを利用され愚弄されたこと)については、この世が終わっても許せな
い。酒で絡むようになんか、絶対言わない。しらふのときに、「人の大切
にしていることでそんなことをするなんて、人間のくず」と言ってあとは
大学を卒業するまで二度と口をきかない。
(たぶん、主人公から買った本も焚書にすると思う。まあ、そこまでプラ
イド高く粘液質なのは、わたしくらいかもしれませんが。)

麻紀ちゃんも、ネギシくんも、どうして主人公を問いつめないのでしょう?
麻紀ちゃんは、主人公を徹底的においつめないでセックスしてくれちゃうし、
ネギシは「まあええ」と黙ってくれちゃうし、あんまり主人公の未熟さに
都合良すぎるんじゃないでしょうか?
(家族もそうです。)
そういう「葛藤」を、主人公が避けてるのではなく、作者が避けてしまっ
ているような感じを受けました。

「プリズム」は短編であり、またかかわる人間が「30分で性欲の処理を
してくれるフーゾクの女の子」であるだけに、「関わりが薄い」ことの短
所が出てませんが(むしろそれがリアリティになっていますが)、こちら
の作品は、もろその短所が出てきてしまっています。
そういう葛藤が描けるけれど、「そういう葛藤を避ける、現代的な若者」
を描いているのと、「作者が最初からそういう葛藤が書けなくて、だから
葛藤をさける主人公しか書かない」というのとでは、全然違います。

なんか「主人公が老成している」という感想が多かったけど、わたしは、
主人公の独白をみるだに、「幼稚」という印象しかもたなかった。
むしろ、ハタチにしては、受験勉強ばかりしてきて精神的に熟考したりし
た経験のないキャラクターだと思いました。それを描こうとしているとし
たら、成功しています。
「学園闘争」みたいなバカな真似をしない、という意味では老成なのかも
しれませんが、それは、現代の大学生はほぼ全員そうでしょう。

家族も、全然家族らしくない。カキワリっぽい感じを持ちました。
特に姉との関係が、徹底的にまずい。
主人公は姉を嫌っているのか? 女の兄弟だからテレてるのか?
普通の兄弟姉妹なら、普段は仲が良くなくてもたとえば「ふだん姉をバカ
だと思っているけれど、なにかのときに、ねえちゃんがいて良かったと思
う」とか、そういうのがあるはずです。
(特に、今回は車で送ってもらうシーンがあるのですから。そこで「メシ
を作ってやったということはあるにせよ、姉ちゃんがいて良かった」とか
思わないのでしょうか???)
それがないのがヘン。
もちろん、「骨肉相争う」ような仲の悪い兄弟姉妹もいます。
が、それにしては仲が良いですし。

ひょっとしたら、「人との関わり」を描くのがあまり上手ではないのかも
しれません。
とにかく、今の状態では、主人公は非常に人の気持ちに鈍感な、(自分の
気持ちだけには敏感な)、ワガママなだけの魅力のないキャラクターです。
(かろうじて、母がトビウオ焼いているところで、母にだけ気遣いがあり
ますが・・・。)
なぜ、麻紀は、主人公をそこまで好きなのか、理解できないです。
(そういうエピソードなどあればよかった。)
主人公がお寺に出入りするようになったエピソードも、ない。

それから、母親のことを「祐子」というのは感心しません。
主人公から見れば、母のはずです。
(そのせいで、最初は、精神病院につれていかれているのが、姉だと思い
ました。)

また、母親が病気になったことで、家族が壊れていく様子が十分に書かれ
ていません。(フトンの描写だけ。)
たとえば、わたしが姉ならば、こんな弟なら、一度は(あの車のシーンの
ようななまぬるいのではなく)どやしつけます。
自分や父だけが介護してるのに! というのがもっと爆発すると思うので
すが。(ここも、主人公の甘えを周りが甘受してしまっている、都合の良
いシーン。)
主人公の母は、おそらくまだ多くて55歳くらいでしょう。
(姉が22歳なのですから・・・。)ひょっとしたら50歳くらいかもし
れません。あるいは40代の可能性さえあります。
それで「アルツハイマー」というのは、ものすごく衝撃的なことじゃない
でしょうか。実際に、こんな若年齢でアルツハイマーになる人がいるそう
です。実際に見たわけではないのですが、
父の職場に、そういう人がいたそうです。40歳くらいで発病して、だん
だん仕事ができなくなって、家に持ち帰って奥さんにしてもらうようにな
り、最後は出社できなくなって、結核など長期の療養と同じ扱いで療養し
ていたけど、もちろん治ることなどなくて10年くらいで療養のまま退職
したそうです。
父からの話、もちろん父だってその人の家庭生活・療養生活まで知ってい
るわけではないので、会社での様子だけなのですが、それでも衝撃的な話
でした。
(医者が「年齢的にアルツハイマー」って言っていたけど、この年齢でア
ルツハイマーって珍しいと思います。わたしの父は今現在69歳、母は
66歳ですけど、普通のボケも出てないですし、体は弱くなりましたけど、
知能的には問題ないです。アルツハイマーといえば、ふつうは70過ぎの
病気じゃないでしょうか?)

その衝撃がかけてないような気がします。
(お寺に毎日昼寝に行くような場合じゃないって。わたしなら、
何もできなくてもお寺で昼寝なんてできないよー。)

アルツハイマーと確定したら重苦しいだろう、と最後のほうで主人公は
考えていますが、むしろ逆なのではないでしょうか?
もう、「悪いときには、夫の顔も覚えていない」ような状態なら、確定
していなくても非常に悪い病気であることは間違いないことです。
(アルツハイマーでなくても、ヤコブ病かもしれません。あるいは良性の
脳腫瘍で今まで症状が現れていなかっただけで、今巨大化して脳をとても
圧迫してるからかもしれません。)
むしろ、わたしなら、(わたしなら、真実に直面することを恐れません
が、もし父などがそれを恐れて母の診断を拒んでいたとしたら)、どう
いうものであれ真実が分かることにほっとします。
どうでしょうか?

麻紀とのことですが、どうして彼女に、母の病気のことを言えなかった
のでしょうか?
お母さんが「アルツハイマー」などという病気で、どんどん悪くなって
いって、今自分が押しかけたときも、お父さんがそのために病院に行く
ところであった・・・などという理由であれば、「いろいろあって連絡
できなかった」ことがナットクできます。
(ただ、そんなときにセックスはできないですが・・・。)
彼女とは、父親にもはっきり「恋人」と言えず、母の病気のことも言え
ない、その程度の関係で、でもセックスだけは一人前にしたがるんです
ねえ。うーん。(しかもお父さんがそのときお母さんのために病院に行
くというときに・・・。)
しかも、それで「なかなか絶頂にいたらない」なんてねえ・・。

わたしだったら、こんな抱かれ方したくないな。
本当に愛して抱いてくれてるのがいちばんだけど、せめて本当に「体を
欲しがって」抱いて欲しい。
これじゃあ、不安になったら女の体に手を伸ばしてる、まるでトランキ
ライザー代わりだもの。プライドが傷つきます。(きちんと自分の問い
に答えてもくれないし・・・。)

とにかく、読んでいて、「ネギシを騙して罪悪感を感じる」とか、
「父や姉にばかり介護の苦労をかけて後悔した」とか、麻紀が来たとき
「麻紀に連絡しなかったのに来てくれたなんて悪いことをした」とか、
そういうものが一つもないんです。
この主人公、人に対する思いやりが欠如してるんじゃないでしょうか?
(ひょっとしてサイコパス???)
そういうものがなくて、いろいろ人生について考えているから、
非常に自己中心的で幼く思えるのです。

喜びも悲しみも書けてない。後悔や罪悪感も書けてない。
セックスの悦びさえない。それでただ「どうなんだろう」と考えている
だけ。
(特にセックスの最中。考え事するなよー。相手に非常に失礼だろが。
だいたい、「セックスの最中に相手の女がどうも気乗り薄で考え事なんか
してるのが不満」みたいな小説の描写ってよく見るけど、男性だってそう
でしょう? それとも男性がそれをするのはいいの??)
いきつけのバーが店じまいすることだけに、ちょっと感傷があるけど、
それ以外の感情って、この人にあるの? って言いたい。
(母親がアルツハイマーになってるときに、そんなこと思えるか???
お寺で昼寝したりバーで飲んでる場合じゃないでしょうに。)

なんか、人間の心理がまともに書けてない。
それで文章や表現だけまともだから、見られない。

今回はひどい酷評だけど、こんな感じしか抱けませんでした。


  ∧ ∧  砂倉 櫻
(≡^・^≡)sakura_o@ma3.justnet.ne.jp
    

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