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Date: Tue, 8 Jun 1999 19:52:11 +0900
From: "=?ISO-2022-JP?B?GyRCJC0kayQ3JCcbKEIg?=" <sakura_o@ma3.justnet.ne.jp>
Subject: [bun 00276] Re: 『ちり』の感想をめぐって
To: bun@cre.ne.jp
Message-Id: <375CF5DB1F4.D0F1SAKURA_O@ma3.justnet.ne.jp>
In-Reply-To: <37AC81F1.1517@thepentagon.com>
References: <375BD209316.91EASAKURA_O@ma3.justnet.ne.jp> <37AC81F1.1517@thepentagon.com>
X-Mail-Count: 00276

二通も書くと、何かまた言われそうな気がしますが・・・
[bun 00270] 『ちり』の感想をめぐってへのレスです

>  たしか、女性が道端に寝ころがっていてレイプもされないなんて信じられ
> ない、という感想があったような気がします。
中略
>  ま、途上国の犯罪率をここでうんぬんするつもりはありません。ただ、せ
> っかく自分の見聞の及ばないできごとを知るチャンスがあるのですから、活
> 字(他者)を通して知り得た情報を「信じられない」と拒絶するのはもった
> いないじゃないか、と言いたかったのです。

何度言われても、少なくとも横山さんの作品では「信じられない」です。
悪口では、ありません。
横山さん御自身がかかれているように、他の人に読ませても、「作者には
海外滞在経験がないか、ほとんどないのではないか」と言われてしまうと
いうことは、そう感じるのはわたしだけではない、ということです。

たとえば、わたしが、ナチス・ドイツについて書くとします。
たぶん「アウシュビッツ収容所が絶滅収容所として稼働を始めたのは19
42年のことである」のは本当なのですが、これをご存じである方はほと
んどおられないでしょう。(こんなに後のことなんです。)

ユダヤ人に対する迫害は、もちろん当初から死に至らしめることが多く、
それだけでも大量虐殺だったのですが、「無制限の、最初からの虐殺」に
ゴーサインが出たのは、1942年の1月のことでした。
そして、それを受けて、アウシュビッツなど絶滅収容所ができたのが同年
6月のこと。(強制収容所が、アウシュビッツひとつだと思ってる人も多
いのですが、まちがい。アウシュビッツクラスがあと2つあるし、小さい
ものを入れたらまず100は越えます(^^;; )

こういう経緯を書かずに「ユダヤ人の虐殺は1942年に始まった」とも
し書いたら、読者から「間違いだ」「うそだ」の連発を喰らうこと間違い
ありません。(きちんと書いても、某JUNEの編集者?下読み?はそれ
を理解できなかったが・・・。)

そういうことです。
読者は、「知らない」のです。「知らない」人に、「そうなのか」と納得
させるだけの説明・描写が欲しい。「知らない」というのはに、「グアテ
マラ」みたいにほとんど知られていない、というのも、「ナチス・ドイツ」
みたいに先入観が非常に大きい場合も含みます。
(その結果、小説家は「見てきたようなウソ」を盛り込むことがあります。
自分でそれを知っているから、歴史ものを書くときは、歴史小説はいっさ
い使いません。)
歴史ものや紀行ものは、短編では無理だと思います。
その当時の歴史や、あるいは地誌を盛り込んでいくのが魅力ですし、それ
がないと、「理解しろ」というほうが無理かもしれません。

それから、おおかたの人にとって「いかにもそれらしい」と感じる小説は、
ひょっとしたら、現実にその情景・状態・舞台を体験した人には、「こん
なんじゃないぞー」と言われるかもしれない。
ひょっとしたら、横山さんが感動した開高健の作品も、実際にベトナムに
行った人には、「これは違うよー」という反応をされるかもしれないのです。

わたしは、北海道生まれですが、北海道を舞台にした作品で、「違うぞ〜」
と思うことがあります。あるいは北海道生まれでも「しらんかった〜」と
思うこともあります。北海道生まれだからこそ、「流氷」とか「富良野の
ラベンダー畑」とか「札幌雪祭り」など観光スポットは知らない、という
こともあります。
「知っている」というおごりは、禁物だと思います。
北海道に産まれて11年を過ごしたからといって、北海道について読み手
を納得させるほど書けるか、あるいは大阪に住んで15年を過ごしたから
といって、大阪についていかにもそれらしい、と読み手を感動させるほど
書けるか、といったら、ノーだと思います。きっと、北海道や大阪を舞台
に書くときは、またもう一度調べなければならないだろう、と思っています。

もの書きは、「相手がどう思うか」を常に考えて書かなければならない、
と思います。
「グアテマラ」であれば、たぶん、読者は「中南米のラテン系の国、貧し
くてコーヒーのモノカルチャー経済」程度の理解しかないと思います。
(あたっているかどうか分かりませんが、普通の人の理解はこんな感じと
思います。)
そのくらいの理解を枠に補強していくか、あるいはその理解をブチ破って
新鮮な理解をさせるかは、作者次第です。
街路樹ひとつでも気候を描けるし、走っている車や道路の舗装の状態でも
経済程度が分かります。横山さんの作品は、そういうものがないです。
だから、東京に見えてしまう。日本人にとっては、こういう都会はそれが
基準だから。
いくら「グアテマラシティーだと書いてる」と言われても、カキワリが
しっかりしてなくて、読者がイメージを補う結果、東京に見えるとしたら、
異様な感じを与えます。

わたしが、「おかしいな」と感じるのは、だから、そこなんです。
(東京なら、ああいう女乞食が、集団リンチで殺されたりレイプされた
りしかねないですからね。)

そこが、「やはり欧米だとか、せめてアジアくらいが舞台ではないと、
日本人としては興味を持って読んでいただけないのかもしれません。」と
言わずに、努力して欲しい点ですね。

そういえば、横山さんのそのおっしゃり方、誰かに似てるなあ、と思って
いたんです。
・・・昨日、メールを待っていた「わたしのダーリン☆」がそうなん
です(^^;
彼は、外務省にお勤めで、マレーシア語が専攻なんですが、惚れていて
も、なおかつ「コイツ、東南アジアオタクだなあ(^^;;」と呆れること
しばしです。
彼は、「アメリカやヨーロッパの国々についてよく知っていれば、すご
いと言われるのに、マレーシアや他の東南アジアの国々について基本書
程度の知識を言っても、マニアック扱いされる」とこぼしていますが……
(実際マニアックなんだけど、当人は気が付いていない(笑)。)

だから、わたしは、「いや、わたしはドイツをずっとやってるけど、
ドイツだって知られてないことおびただしいよ。統一してからはさす
がにないけど、統一前だったら、『ドイツが好き』と言っただけで
『ハイル・ヒトラー』されちゃったもん。」って言ってますが。

彼と話していると、けっこう大変です。彼は、「知ってるもの」と
して、マレーシアの政党の名前とか政治家の名前とか社会とかに
関して、用語になんの説明もなく話してきます。(^^;;; だから、
前の前の彼女に、「同じ話ばかりする〜」と嫌われたんだって。)

みなさんの中で、今、マレーシアで問題になってること、知ってますか?
もと副首相のアンワールという人が、ホモだとか姦通とかで訴えられて
公職を追われた話です。日本の新聞にも、確かに時々出てますが、普通
の日本人は知らない、感心がない人がほとんどだと思うんです。
(わたしも彼と知り合わなかったらアンワールなんて人一生知らなかった
って。)
それを、彼は、「日本人は東南アジアに感心がない」と不満がるの
です。(これはオタクだと感じるのは私だけだらふか・・・?)

そんなものです。
横山さんは、中南米の国に感心があるから、「欧米やせめてアジアの国
だったらみんなもっと感心持つのに」と嘆くけど、
東南アジアの国に感心を持つわたしの彼は、「欧米の国だったらみんな
感心を持つのに」と言うのです。
でも、欧米の国のひとつであるドイツに特に感心があるわたしは、
「欧米のこんなにメジャーな国だって、そんなに知られてるわけじゃ
ないよ」と二人ともに言いたいです。

要するに、普通の人にとって、「外国にそれほど感心はない」のです。
まったく感心があるわけじゃないけど、わざわざ事前に知識を得ようと
まで外国に興味がある人は少ないし、たまたまそういう外国がある人で
も、さらにその他の国に対してどれほど知識があるか、というと他の人
と同じなのです。
(横山さんに質問。横山さんは、たとえばドイツやマレーシアにどれだ
け知識があるでしょう? もしグアテマラと同じだけ関心と知識がある、
というのであればわたしが間違ってますが、もし「それほどない」ので
したら、「日本人はグアテマラなんかに関心がない」と言うのはお止め
ください。一億総グアテマラ好き、というのを考えると、ちと怖いもの
があります。ほとんどの人が、グアテマラに知識がないからこそ、
横山さんの体験や作品に価値があるわけですし。)

でも、わたしは、横山さんが、自分が体験したグアテマラを書きたい、
という姿勢は、好きです。クリスさんがおっしゃるみたいに、拒絶し
ているんじゃないんです。

それから、彼についても、「日本と東南アジアの結びつきを強めたい」
とか「外交官として東南アジアについて論文を書きたい」という、
そういうところに、惚れてたりします(*^^*)。

・・・さいご、のろけてごめんなさい

  ∧ ∧  砂倉 櫻
(≡^・^≡)sakura_o@ma3.justnet.ne.jp
    

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