口上
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流です。
他人の話ばかり読んでいるのも退屈なので、作品投げます。
ある同人誌に『道』というテーマで応募して見事ボツった、思い出の一品(?)です
。僕にとっての問題は、こういうときでも『小説』を書くことができないということ
で、これは僕が小説というものに、つねづね疑問を感じているからかもしれません。
こんな書き方するとウケないよ、という悪例の一つとして御笑覧あそばせ。
* * *
丘へ上る道
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湾を見下ろす丘の上に信号所があり、彼はそこに住んでいた。信号所というのは、
港へ出入りする
船に合図を出す施設である。
私は彼に会うために、駅を降りてせまい階段を上っていった。私が先に立ち、母が
後に続いた。斜
面を削って土止めをしただけの道だったから、その両側には四季折々の花が咲いた。
丘の上には信号所と煙突以外に何もない。そこで彼は私を連れて丘を下り、ふもと
の店で花火や爆
竹や銀玉鉄砲やその他もろもろのおもちゃを手にすると、ふたたび丘を上る。そして
二人はそのへん
におもちゃを並べ、暗くなるまで遊んでいた。その丘の周囲一帯は工業地域で、人の
住む家など探さ
ないと見つからないような場所でもあった。今から考えると、小学生にとっては寂し
すぎる環境だっ
たかもしれない。
毎日お花畑の中を通って通学し、信号所という特殊な場所へ出入りできる彼の環境
を私は羨んでい
たのだが、あるいはまったく逆に、彼のほうでも私の環境を望ましく感じていたのか
もしれない。私
は信号所へ上って行くその道を通るのが好きだったけれど、それは年に何回も通らな
かったから、そ
の道の不機嫌な表情を見ることがなかっただけのことかもしれない。
あのような土の道は、歩く以外の用途には適していない。車両は出入りできないし
、自転車でも階
段に出くわすと、車体をかついで上るはめになる。身体の具合が悪いときには歩きに
くいだけだし、
重い荷物を持ち運ぶときには足元に注意を払わねばならず、災害に遭うといつ崩れる
かわからない。
そこまでいかなくとも、舗装もされていない道は、雨が降るとぐちゃぐちゃになって
しまうものだ
____もちろん、それは当時から承知している。なのに、今だにそんな道を見ると、そ
こを歩いてみた
くなるのはなぜなのだろう。
今でも丘の上では信号所が仕事をしており、丘の中腹まで民家がせり出してきたが
、彼の消息は不
明である。
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魔術幻燈 ☆★☆ 流琢弥/萩原學/硯研一郎
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