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Date: Mon, 7 Jun 1999 23:07:05 +0900
From: "=?ISO-2022-JP?B?GyRCJC0kayQ3JCcbKEIg?=" <sakura_o@ma3.justnet.ne.jp>
Subject: [bun 00261] Re: 「ちり」の感想、ありがとうございました(超長文注意)
To: bun@cre.ne.jp
Message-Id: <375BD209316.91EASAKURA_O@ma3.justnet.ne.jp>
In-Reply-To: <003d01beb0dc$9a346010$690100c3@pcd0070>
References: <003d01beb0dc$9a346010$690100c3@pcd0070>
X-Mail-Count: 00261

こんばんは、砂倉 櫻です。


> 皆さんの推察通り、私は青年海外協力隊としてグアテマラに3年間
> 住んでいた経験があり、中南米(特に中米)には多少の知識があ
> ります。

それが、活かされきっていないような気がします。
とはいっても、プロの作品でもありますが・・・名前は忘れたの
ですが、(たしか、トウドウシズコ、って作者だったと思う)、
作者は札幌生まれの札幌育ちで、だからその短編集のすべての
舞台が札幌なんですが、「別にこれは札幌でなくても、東京でも
大阪でも名古屋でも、現代日本の都会ならどこでも成立する話だ
なあ」と思いましたが・・・。

中南米の貧しい国ならどこでもいい、って感じがしました。
それは、描写が細かくないせいかもしれません。
そんなに良く知ってるのなら、どうしてもっと細かく書けないの
か、と思います。

同じ中南米でも、ブラジルとアルゼンチンは違いがあるはずです。
チリやペルーとも違うはずです。パラグアイやホンジュラスとも
違うはずです。(どう違うのかは、わたしは指摘できませんが。)
「似てる」ということは「違う」ということです。

人種構成や産業や地理、歴史から、「同じ」中南米でもそれぞれ
国の個性が出てくると思うのです。
「知っている」と言えるためには、「どう違うのか」はっきり
言えなくてはならないと思います。
それが、作品に直接反映されるかどうか分かりませんが、作者が
はっきり把握してるかどうかは、作品の出来上がりに差になって
現れます。

たとえば、わたしは、ナチス・ドイツを舞台にして書くことが
非常に多いのです。
今から65年くらい前のドイツは、非常な後進国で、ヒトラーの
政策的目標のひとつが、「全ドイツ人に自家用車を普及させる」
ことでした。今の「自動車大国・ドイツ」を考えると、信じがた
いものがありますね。
外国を描くとき、「その社会はどうなのか」常に意識してる必要
があると思います。
(まあ、ハリウッド映画みたいに、「ユダヤ人殺してハイルヒト
ラーのおバカさんたち」と描けば、大変楽なのですが、個人的に
ドイツは大好きなので、そうは描きたくないのです。)

中南米の国であれば、比較的政情が安定していて経済発展してい
る国と、モノカルチャーから脱せない国と、差があると思います。
黒人の血が優勢な国と、インディオの面もちを残した人が多い国
と、移民がたくさん居てひどく混ざり合っている国と、やはり
違いがあると思います。
マリアの前を通り過ぎる人たちの肌の色、服装、町の発展度、
そういったものが漂ってこないというか、だから、「中南米の
貧しい国ならどこでもいいんじゃない?」という結果になるの
だと思います。

「その国でなければならない」というのは、なかなか難しいです。
特に、日常的なことであればあるほど、「どこの国でもありそう」
になってしまう。
(たとえば、「アウシュビッツにおけるユダヤ人虐殺」なんて、
「ヒトラーの時代のドイツ」にしかありえないから、その意味では
楽。)

> 『もっと悲惨な状況になるはず』というご指摘もありましたが、
> 実際私が3年間住ん
> でいて、若者たちがおもしろ半分に野宿している方たちを襲撃
> したり。。。というシ
> チュエーションは考えられません。
> もちろんそういうこともあるかもしれませんが、あまりにも希
> なケースです。
> 「そうなるはず」ということはありません。

そうでしょうか?
わたしは住んでいないので分かりませんが、「親が、貧しさから
子供の空腹に麻薬を与える」ような貧しさでは、そういう犯罪が
起こらないほうがフシギです。
19世紀末から20世紀初頭のロンドンの貧民窟がそうだったの
です。親は、子供に食べさせられないから、アヘンを与えて労働
していたのです。
当然、切り裂きジャックみたいな変質的な犯罪者が多発して、
人がおもしろ半分に殺されることが頻発したようです。
そうでないとしたら、貧しいけどまだ民心は荒れてない???
そうでないとしたら、横山さんが書かれた、「マリアの母は、
幼いマリアの空腹にマリファナを与えた」というのが創作なので
すか?
とにかく、わたしには信じがたいです。
特に、強姦されかかることすらないなんて、信じられないです。

> 「そんなことあるわけないじゃん、作者は海外渡航経験がないか、
> 乏しいとしか考えられない」
> と指摘されたことがありますが、うーん。書いたことは真実であ
> っても、読んでいる人はシチュエーションを想像することができ
> ない。。。。当たり前ですよね、そんなグアテマラみたいなマイ
> ナーな国の事情、想像できないし、したくもない。。。

グアテマラがマイナーだから想像したくないのではなく、マイナー
な国のことが良く書けていれば、それだけで興味を引きます。
要するに、横山さんの文章力がない、と思います。
「ちり」を読んでいて、「東京」のように感じたのは、わたしだけ
ではないような気がするのです。
とてもじゃないけど、あれで、「グアテマラに3年いました」と
言われても、「それだったら何を見ていたの?」という気持ちに
なります。

> こちらとしては、なるほどそういう国があって、そこの人はそう
> いう生活をし、そんなことに喜び、そんなことで苦しみ。。。
> という再発見をしてもらえたら。。。という気持ちもあるのです
> が、それはやはり読者への甘えなのでしょう。

だから、それが、はっきり言って「全く書けてない」のです。
あの話は、日本の乞食でも起こりうる話ですし、舞台も「グアテマラ
シティー」でなく、登場人物の名前も「マリア」「カルロス」でなく、
途中にスペイン語が入らなければ、日本で通ってしまいませんか?
(だから、途中に入るスペイン語が浮いて見える。)

> やはり欧米だとか、せめてアジアくらいが舞台ではないと、日本人
> としては興味を持って読んでいただけないのかもしれません。
> しかしながら、それも言い訳であって、小説の質とはまた違ったこ
> とです。

それを言い訳にしたら、上手にはなれないでしょう。
おそらく、今お住いの日本のどこかの都市を舞台にしても、
「本当にここに住んでいるの?」という文章しか書けないでしょう。
(まあ、「大阪府茨木市」と「大阪府高槻市」を違うように書け、
というのは大変難しいですが・・・(^^; どちらも大阪のベッド
タウンで、個性がないことおびただしいです。まあ、茨木市は、
文豪川端康成が幼少期住んでいたことで多少有名ですが・・・。)

> グアテマラでなければならない必要性。。。
> どうすればいいんだ。。。いつもいつも悩むことです。

一度、小説にしないで、「文章でスナップ写真を撮る」みたいに、
表現してみたらどうでしょう?
グアテマラの印象を、そうやって「言葉のスナップ写真」にしたら?
道ばたの水売りの女、家の庭に椅子を出して煙草を吸っている老人、
先進国ではとっくに廃車だろう車を運転している男・・・そんな姿
を、400字くらいで表現してみては?

> しかしながら。。。これは完全に意図的にやったんですよ。
> ところがほぼ全員の方から、「やめたほうがいい」と。。。

だから、「東京」としか思えない、「東京」でも構わない舞台に、
やたらとスペイン語をならべたてているだけに見えるんですよ。
読んでいるだけでベトナムの空気まで感じるような文章の中で、
ベトナム語が連発されていても、あまり気にならないでしょう。
また、前後関係から分かる場合、たとえば、「○○○売りが××
×××と声をかけながらやってきた。わたしは彼から一椀の水
を買い、のどを潤した」なんていうのであれば、○○○や××
×××に説明がなくても分かりますし。

> 特に「夏の闇」のほうは最後の最後まで舞台がどこなのか明記され
> ず終わりますが、ヴィエトナムだということは小説の筋でだんだん
> とわかってきます。
> ヴィエトナムが有名な国だから許される???

その、「グアテマラがマイナーな国」コンプレックス、やめてく
ださいよ。はっきり言って、「ナチス・ドイツ」はメジャーすぎ
て、読者の先入観が強すぎて困ることがあるのですから。

「夏の闇」等は読んだことがないのですが、「最後までベトナム
とははっきり明記していない」からこそ、ベトナム語が必要なの
だと思います。一種の雰囲気としての効果とか、音の効果とか、
いろいろあるでしょう。
そこまで考えて書いておられるかというと、そうでもなさそうで
すし・・・。

作品の一部分だけでも、発表したらどうですかねえ?
何回かに分けて、でもいいでしょうし、それで問題があれば、
また改めて考えてもいいでしょうし。わたしは、わけあって、
7月8月まではとても小説を書いてられないんです。
でも、きちんと批評はいたしますんで・・・。


  ∧ ∧  砂倉 櫻
(≡^・^≡)sakura_o@ma3.justnet.ne.jp
    

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