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Date: Mon, 7 Jun 1999 20:55:13 +0900
From: "Yokoyama Nobuhiro" <yokoyama@ostc-na.netspace.or.jp>
Subject: [bun 00256] 「ちり」の感想、ありがとうございました(超長文注意)
To: "sakura mail" <bun@cre.ne.jp>
Message-Id: <003d01beb0dc$9a346010$690100c3@pcd0070>
X-Mail-Count: 00256

横山です。
(メール先が間違っていたようですね、ご指摘ありがとうございました)

月曜日(今日)に出社し、メールを開けると自分の作品に対する感想がいくらかあ
り、感激しました。皆さん、どうもありがとうございました。

今日一日、仕事中も(今も仕事中ですが)ずっと皆さんのメールに書かれていたこと
を考えていて、何から書こうか迷ってしまいますが、とりあえずはそれぞれの指摘に
ついて、自分の考えを述べていこうと思います。

まずは今回の小説を書いた背景について:

皆さんの推察通り、私は青年海外協力隊としてグアテマラに3年間住んでいた経験が
あり、中南米(特に中米)には多少の知識があります。
向こうでの滞在期間中、小説家を目指すようになりましたから、基本的にはグアテマ
ラの、または周辺諸国を舞台にした作品ばかりを書いています。

短い小説を書く、ということがほとんどない自分にとって、今年のはじめからちょっ
と気分転換程度の意味合いで「ちり」を書いたのですが、こういった小説もなかなか
いいかなという程度のものでした。

いつもは物語の展開が「暑苦しい」ほど盛り上がったりするものですから、今回は短
いからこそ、できる限り押さえてみよう、そのように配慮したつもりです。
これが → 『クライマックスがない』ということでしょう。

たとえばこの「ちり」で新人賞などに応募して勝負しようなどと考えていたら、もう
少し違った作品になったのかもしれません。

しかしながら私個人としては、「ちり」にクライマックスがなくてもいいと思ってお
ります。また、具体的なテーマ、みたいなものがなくても小説は成り立つのではない
か、そのようにも思っています。
いつも(いつもといっても皆さんはおわかりにならないと思いますが)は、やはり
「これでもか」というような重々しいテーマがありましたので、今回はいいかな、
と。。。
ただ、どんなに短くても小説としての「起伏」くらいはつけたい。
読んでいて、ああそろそろ終わるのかな、、というような予感くらいは読者に察知し
てもらいたい。
そう考えていたのですが、それはまるで消化不良だったようですね。
一応は、マリアが死の縁を漂う辺りに、その場面を当てはめたつもりでしたが。。。
実際、あの場面はうまく表現しきれなかったかもしれません。反省材料です。

それに、こちらの意図が伝わらなかった点として、「悲惨さ」が目立ったという点で
す。
私はそれほど悲惨だ。。。という風に書いたつもりではなかった、もっともっと冷め
た目で描写したつもりだった、から、もっとすらすらって読まれるかと思ったのです
が。。。
「貧しい国の人の中にはね、こんな人もいるんだよ。。知ってるかい?」
というようなニュアンスが少しでも見えたのなら、もうこれは大失敗です。

「限りなく透明に近いブルー」の性描写が、非常に清潔であった、というああいう感
じを目指しています。
だめだだめだ、もっともっと勉強ですね!


それと、こういうものを書いていますと、ほとんどの方に指摘されるのですが、「状
況がよくわからない」ということ。

つまり、グアテマラなんて国のことはどこにあるのかも知らないし、どんな人が住ん
でいてどんな生活をしているかだなんて興味すら持たない。

そこに作者と読者の認識の違いがあり、そこを埋め合わせるだけの小説の力もな
い。。。。
つまりこれくらいわかるんじゃないの。。っていう作者の甘えがある。
ここが最大の問題点です。

『もっと悲惨な状況になるはず』というご指摘もありましたが、実際私が3年間住ん
でいて、若者たちがおもしろ半分に野宿している方たちを襲撃したり。。。というシ
チュエーションは考えられません。
もちろんそういうこともあるかもしれませんが、あまりにも希なケースです。
「そうなるはず」ということはありません。
確かに日本ではあります。
私も渡航前に野宿労働者の方たちの保護のためにボランティアに加わったことがあり
ますから。
しかしながら、向こうではちょっと考えられません。。。野宿していらっしゃる方た
ちにも友達はたくさんいましたから。
(こういうことをくどくど書いても仕方ありませんが)

以前にも自分の作品を読んでいただいたときに、
「そんなことあるわけないじゃん、作者は海外渡航経験がないか、乏しいとしか考え
られない」
と指摘されたことがありますが、うーん。書いたことは真実であっても、読んでいる
人はシチュエーションを想像することができない。。。。
当たり前ですよね、そんなグアテマラみたいなマイナーな国の事情、想像できない
し、したくもない。。。

こちらとしては、なるほどそういう国があって、そこの人はそういう生活をし、そん
なことに喜び、そんなことで苦しみ。。。という再発見をしてもらえたら。。。とい
う気持ちもあるのですが、それはやはり読者への甘えなのでしょう。
そこまでの想像力を読者に求めてはいけないのだと思います。

やはり欧米だとか、せめてアジアくらいが舞台ではないと、日本人としては興味を
持って読んでいただけないのかもしれません。
しかしながら、それも言い訳であって、小説の質とはまた違ったことです。

「グアテマラ」という国名を他国に変えても、なんら問題はない。。。
つまり、舞台がグアテマラであるという必要性が乏しい。
それもよく言われることです。
しかしながら、私はグアテマラの、というかそこら辺、自分が滞在していた国々で感
じたことをどうしても書きたい、それ以外のことは書くつもりがない。。。
グアテマラでなければならない必要性。。。
どうすればいいんだ。。。いつもいつも悩むことです。


さて、ここからは、大変勉強になったご指摘:

まずは『視点移動』。
文章の中で不用意に視点移動があり、読者を困惑させるなんてもってのほか。
小説の基本ができてない証拠です。
歌手を目指しているのに、音をとれない、でも感情表現しようとして歌う。。。それ
くらいのことでしょう。
小手先で文体をいじくったりはしますが、まずやはり基本を徹底しないと。。。
これは本当に自分を戒めたいです。

あとは、意味不明の表現があった、ということもそうですね。
「ちり」も100回以上は読み直しています。
推敲がたりないというより、自分の力量がたりないということです。
ご指摘ありがとうございました。

さて、もっとも多かったご指摘が、「スペイン語などのカタカナ表記」、これが読者
を疲れさせ、読み進めていく意欲をはぎとる要因となったようです。

しかしながら。。。これは完全に意図的にやったんですよ。
ところがほぼ全員の方から、「やめたほうがいい」と。。。
ならば、やめる、というかもっとわかりやすくちゃんと日本語訳で書く、ということ
をしなければなりませんね。

たとえば、「チクレ売りの少年」なら「チューインガム売りの少年」という風に。
やたら向こうの言葉を羅列すれば雰囲気が出るというものでもないということを痛感
しました。
それとも、筆力がたりない。。。?

開高健の「輝ける闇」「夏の闇」を読んでいますと、同じようにヴィエトナムの言葉
が過剰に出てきます。ほとんど意味が分かりません。
前後の文章から推測するしかないのです。
けれども敢えて説明していそうでしていないところに惹かれ、いっちょう俺もそうし
てみるかと思ったわけですが。。。
特に「夏の闇」のほうは最後の最後まで舞台がどこなのか明記されず終わりますが、
ヴィエトナムだということは小説の筋でだんだんとわかってきます。
ヴィエトナムが有名な国だから許される???
そういうことなのでしょうか。

ちなみに私が現在力を入れて書いている作品は、「ちり」の文体をさらにおしすすめ
てもっとわからない言葉を羅列していますので、このようなご指摘を読み、随分と考
えさせられてしまいました。
しかし、それを解決するのは自分自身ですから、自分のオリジナリティを大切にする
ためにも、真剣に考えていきたいと思っております。

また、何かありましたら、どんな些細なこと(たとえば、ここの句読点の位置がおか
しい、などといった)でさえもご指摘くだされば、大変光栄です。


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ところで、だらだらと書いてしまいましたが、今回小説を投稿したあとの感想です
が、ただただ勉強になったの一言です。
なかなか自分の小説を他人に読んでもらうということをしない自分にとって、勇気の
いることでしたが、予想以上にしっかりとしたご意見をうかがえることができ、本当
に幸せに思っております。
これまでひとりでごちょごちょやってきたのが馬鹿らしくなってしまうほどです。
もしもメンバーの中で、投稿してもいいなという方があれば、ぜひそうしてくださ
い、と言いたい。
自分だけでは見えない部分をある程度的確に掘り下げて指摘していただけます。
それほど皆さんの読む目はしっかりとされていると、個人的に受け止めております。
私としては、ほとんど100枚以上の小説ばかりを書いていますので、「ちり」以外で
投稿できるものは現在持ち合わせておりませんが、これだけのご指摘をいただけるの
であれば、もっともっと書いてみようかなという気になっております。
そして、
「お、今度の横山の作品、ちょっとはましになった」
といわれてみたいものです。

また、あるテーマを掲示し、それに対して皆さんで書いて投稿するという案もありま
したが、いいアイデアだと思います。
ただ、私は参加できないかな。。。できるかもしれませんが、、難しい、と思う
何分、毎日仕事に追われてまして、今のままですと、なににつけても「期限」を設定
されてしまうと、守れそうにないからです。。。
このメールのように仕事中に書くことができればいいんですが。

しかしながら、せっかくこのような案が出たわけですから、皆さんも意見を出し合っ
たほうがいいでしょうね。
発案者がかわいそうです。
一度でもアイデアが自然消滅してしまうと、次から誰もアイデアを提供しなくなるよ
うな気がしますから。


とにかく、今回は本当にありがとうございました。
まだまだ意見がある方はよろしくお願いします。

では。

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あ、それと『乞食』は差別用語のはず。。。。言葉を扱う仲間として、念のため。
(以前、精神薄弱、という言葉を小説の中で用いたら「それは知的障害だ!!」と
こっぴどく叱られました。私は知的障害者のボランティアをずいぶん前からやってい
て、精神薄弱という言葉はよく使っていたんですよ。ところがグアテマラに行ってい
るあいだに、状況が変わったらしく。。。知らんちゅうの!  って思いながらも、ひ
らにひらに誤りましたが)





    

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