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Date: Tue, 1 Jun 1999 23:24:10 +0900 (JST)
From: poetlabo@cap.bekkoame.ne.jp (T. Nagare)
Subject: [bun 00228] Re: [report] 質問及び投稿
To: bun@cre.ne.jp
Message-Id: <199906011424.XAA23137@soda2.bekkoame.ne.jp>
X-Mail-Count: 00228

流です。
読書感想文なんて長らく書いたことがないぞ。
といいつつ、今回は渡辺さんの文章について書くことにします。

突き詰めて言うならば、世の中の作品というものには、2つの種類しかありません。
すなわち、面白い作品と、つまんねえ作品です。
内容が高度とか文章に凝っているため難解だとかは、まあはっきり言って言い訳です
ね。ポルノだろうとルポルタージュだろうと、読んで面白けりゃ十分です。

そこで、作品のどのあたりに面白さを感じるのか考えて見ると、複数の要素が挙げら
れます。
・頭の上にサボテンを生やしているよりも奇想天外な筋書
・きんさんぎんさんでも聞いたことがねえ新しい話題
・読む人にロックンロールを踊らせる文章の工夫
・文章の力だけで読者をワープさせる場面転換術
・世の中ナメきった作者のものの考え方
ほかにもいろいろあると思いますが、要は作品の面白さというのは一つだけではないと。
ただ、今回はなるべく技術的な話に絞ります。

かくなる前提の許にアメ屋のおっさんのモノ騙りを評すれば、まず

1.筋書として悪くはないが、最上のものでも最初のものでもない。
2.新しい知識や思想を伝えるものではない。

と言えるので、素材で勝負に出るのは無理かな。だが、料理は素材だけで決まるわけ
ではないので、その生かし方に創意工夫が求められることになります。

次に、気の短い僕だけの問題かもしれないが

3.段落が長すぎる。あるいは、文章に切れ目がない。

と感じられます。なんと172行に及ぶこの作品が、物理的にも意味的にも、ずっとつ
ながったまんま最後まで切れることがありません。
おしゃべりだと別に気にならないが、一気に172行読まされるというのは僕にとって
は苦痛です。綴じ本なら途中でページが変わるから少し楽なのだけど、果たしてこれ
を綴じ本にしさえすれば読みやすくなるものかどうか?
僕がこんなことを気にするのは、詩を書くときに、どこで切るかをいつも考えながら
書いているせいかも知れません。ただ、物語というのはまさにモノ騙りに他ならず、
読者をだまして人外魔境に引っぱり込む技術であることを考慮すれば、文章を整理し
て読みやすくなるように努め、読者がイメージを構成しやすくしておいた方が、効果
を挙げるためには有利でしょう。
ついでにイメージ構成という点から言えば

4.場面転換が不明瞭で劇的でない。

とも言えます。劇的でないというのは好みによりますが、不明瞭なのはいただけませ
ん。念のために申し添えると、不可視と不明瞭は違います。読者を引き付けるための
謎と神秘は必要欠くべからざるものであるのに対し、曖昧さは作者の頭の不明瞭を示
すだけであって、断固排除すべきです。
例えば、御自身でお読みになって、盛り上がりに欠けるように感じられたのではあり
ませんか?
話の流れがひたすら平坦なので、どこでどう盛り上がっていいのか、読者にはよくわ
からないのです。俺にはわかる、という方もあるやも知れませんけれど、とにかく、
これでは読者を踊らせることはできません。

そこで、見た目からも内容からも、なるべく文章を区切っていただきたいのです。そ
れだけでも、幾分読みやすくなると期待しております。
区切り方として『起承転結』がどうのこうのとよく言われるけれど、どんな呼び方を
するかはどうでもいいのです。要は切れ目から突き落としたり、切れ目から盛り返し
たりして読者を揺さぶるのが目的です。
ジェットコースターなんかでも、速度や方向などは一定ではありませんよね?ジェッ
トコースターは途中で軌道を変えることはできないので、全ては設計段階で仕組まれ
たものに過ぎません。それでも、設計時に優れた物語が用意されていれば、それは多
くの人達を繰り返し楽しませることができるのです。

文体なんかはわりと完成されているので、これは御自分のスタイルを追及なさって構
わないでしょう。ただ、文体が完全に統一されている必要はありません。途中で視点
が変わるような場面では、文体を変えたほうがいいこともあります。
こういうさりげない文体は、個人的に好きなので、もっとこう、ぞくっとするものが
あれば申し分ないのですが。にっこり笑って人を刺すような。

あと、探偵小説を読みつけているせいか

5.筋書に整合性がない。もしくは、話の筋からすると不要な描写がある。

とも思います。
職業作家の製品にもしばしば見かけることとして、話の始めと終わりで設定が狂った
り矛盾したりしているものがあります。最初からそれを狙ったのならばともかく、た
いていは読者のほうが先に気がついてシラけます。
今回は矛盾とまではいきませんが、せっかく登場する先生方が、話の行方に何の貢献
もしていません。職員会議まで開いてみせたので、ここになにか伏線があるものと普
通は思います。なのに結局、中継ぎ投手以上の地位は与えられていないようで、何も
してくれない。給料分は働かせてもいいのではないでしょうか。

僕としてはこの作品の雰囲気が気に入っているので、もっとパワーアップして怖いも
のになれば、面白くなるんじゃないかと楽しみにしているのです。

感想のほうが長くなるのも何なので、今日はここで切ります。

魔術幻燈 ☆★☆ 流琢弥/萩原學/硯研一郎
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